若手社員が語る工場DXの道のり、アロンアルファの東亞合成はどのように歩んだのか製造マネジメント インタビュー(3/3 ページ)

» 2024年03月08日 08時00分 公開
[朴尚洙MONOist]
前のページへ 1|2|3       

工場の現場を離れたプロジェクト管理アプリの開発が成功体験に

 そのような状況下で転機になったのが、工場の現場での活用からは離れた、プロジェクト管理におけるQlik Senseの活用だった。東亞合成では、一定規模以上の予算が付くプロジェクトについては、プロジェクトマネジャーがERPや各種データベースからデータを集めてExcelにまとめて進捗表や管理表を作って経営幹部や各工場に配布していた。伊藤氏は「この進捗表/管理表の配布は、工場の生産関連データと同様に月次で行われていたが、これを自動化/リアルタイム化したいという要望が役員から出てきた。そこで、多数あるプロジェクト管理のパッケージソフトとのコンペで、Qlik Senseをベースにしたプロジェクト管理アプリを提案した」と説明する。

プロジェクト管理アプリに「Qlik Sense」を適用したことが転機になった プロジェクト管理アプリに「Qlik Sense」を適用したことが転機になった[クリックで拡大] 出所:東亞合成

 実は伊藤氏は、Qlik Senseを使用したデータ分析のコンテストであるQlikデータソンに参加した経験から、プロジェクト管理アプリにQlik Senseを活用できると感じていた。そして、新たなパッケージソフトの導入にはコストがかかるのに対して、既に導入済みのQlik Senseをベースに開発するプロジェクト管理アプリが要件を満たしていることもあって採用が決まった。「工場の現場ではなく情シス的な取り組みではあるものの、非SE人材でもITやデジタル技術を活用できる事例として認められ、これが成功体験になった」(伊藤氏)という。

 この成功体験を基に、工場の現場でどのようにすべきだったかについて立ち戻って考えたところ、次のような考え方に行き着いた。工場の現場の技術者は、ERPやMES、PIMS、LIMSなどさまざまなシステムからデータを収集してExcelやPowerPointで資料を作り、この資料を用いて他メンバーとの会議や解析を行い、工場の生産性を向上するためのアクションにつなげている。しかし、この中で一番時間がかかっているのは、データ収集と資料作成に対応するデータ加工のプロセスだ。伊藤氏は「上場企業にとって、工場の生産性向上は収益増に直結するわけで、一番注力したいのはデータ解析とアクションだ。しかし実際には、データ収集とデータ加工で燃え尽きてしまっている。そこで、データ収集とデータ加工に焦点を当ててアプリを作っていくことを決めた」と強調する。

成功体験を基に工場の現場でやるべきことを見つめ直した 成功体験を基に工場の現場でやるべきことを見つめ直した[クリックで拡大] 出所:東亞合成

 全社で利用されるプロジェクト管理アプリの開発を契機にハイプサイクルの幻滅期を脱し啓発期に入ったことで、時間のかかる工場の定常業務をアプリで置き換えつつ、見せ方などを工夫してひと堀り深い価値を付けるという方針が固まった。開発したアプリの事例としては、1つの工場で生産銘柄が数百種類にもわたる同社の化学品の生産計画を自動化するスケジューラーなどがある。

幻滅期を抜け啓発期に入り「Qlik Sense」を活用した工場DXは軌道に乗りつつある 幻滅期を抜け啓発期に入り「Qlik Sense」を活用した工場DXは軌道に乗りつつある[クリックで拡大] 出所:東亞合成

 Qlik Senseの導入形態についても、2022年からクラウドベースの「Qlik Cloud」に移行した。これによってユーザー数ではなく全ユーザーの総使用時間ベースでカウントするAnacapライセンスを導入でき、社内ユーザー数の拡大にもつなげられた。同年には、東亞合成の全ての国内工場で個別に説明会を開き、開発したアプリの紹介を行うなどして活用の裾野を広げる活動も行っている。同時期に、新入社員教育で導入したQlik Senseを用いたプログラムは90%以上からポジティブな評価を得ることができた。

 現在、東亞合成内で公開されているQlik Senseのアプリは約100あり、約40で頭打ちになっていたユーザー数も210まで拡大している。同社の社員数は約2500人だが「工場の生産技術をはじめアプリの対象になる全ユーザー数のうち過半数が使ってくれている」(伊藤氏)という。今後は、本社の経理部門や研究開発部門などでも利用を広げていきたい考えだ。

東亞合成における「Qlik Sense」の導入状況 東亞合成における「Qlik Sense」の導入状況[クリックで拡大] 出所:東亞合成

 入社8年目で生産革新プロジェクトに配属され、紆余(うよ)曲折がありつつも、工場DXを軌道に乗せることに成功した伊藤氏だが、その経験から、国内製造業が今後成長を続けていくためにも、DXの取り組みに若い世代が積極的に参加することが必要ではないかと感じている。「現時点で管理職以上の世代は、今後より悪化する働き手不足の問題に直面するわけではない。今後現役世代が急減していく中で、より悪化していく働き手不足の問題に直面するのは20代、30代、40代の世代だ。それらの若い世代が主体的にDXに取り組むなどして今から考えていかないと、良い未来は訪れないのではないか」(同氏)としている。

⇒その他の「製造マネジメント インタビュー」の記事はこちら

前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.