騒音計を購入する際、仕様書で騒音計が測定できる周波数範囲を確認しておきます。筆者が使っていた普通騒音計の周波数上限は4000[Hz]でした。この騒音計は老舗音響測定器メーカーのものです。このことから「騒音対策は4000[Hz]までの音を対象にしておけばよい」と書こうと思っていましたが、最新のJIS規格(参考文献[3])を調べてみると「周波数上限は8000[Hz]」となっています。JIS規格が更新されているようです。この規格から次のことがいえます。
騒音対策は8000[Hz]までの音を対象にしておけばよい
以前紹介した打ち抜きプレス機の音の上限は2511[Hz]でした。ガンガンうるさい職場の騒音対策はこれでよいかと考えています。精密騒音計の周波数範囲は1万2500[Hz]なので、もし音に変な高周波音を感じたら精密騒音計が必要になります。
騒音測定時に配慮すべき点をいくつか述べます。工場の操業音など連続的な音はSlowモードによる測定で十分ですが、間欠音の場合は以下の選択肢があります。
騒音障害防止のためのガイドラインに従うと等価騒音レベルとなるのですが、作業者の保護の観点から考えると、音圧波形のピーク値を下げる努力が必要だと考えています。
測定位置は作業者の位置が特定できる場合と、そうでない場合があります。測定位置の目安を図5に示します。注意点としては、壁に近い位置を測定点としないことです。騒音レベルが高めになることが多いようです。
次に「暗騒音」を必ず測定してください。暗騒音は音源を動かしていないときの音です。暗騒音も周波数分析しておきます。暗騒音と音源を動かしているときの騒音レベルの差が小さいときは測定結果を補正します。補正値を図6に示します。
例えば、暗騒音が63[dB]、音源を動かしたときの騒音レベルが70[dB]だった場合、その差は7[dB]となり補正値は−1[dB]で、補正後の騒音レベルは70−1=69[dB]となります。もし、無響室に音源を持ち込むことができたとすれば無響室で測定したら69[dB]として測定されると解釈してもよいと思います。
この補正はほとんど使ったことはありません。暗騒音との差が9[dB]程度ならば、そのような音は問題視されず騒音対策としての仕事にならないからです。
「200[Hz]以下の周波数だったらあまり相手にしなくてよい」と説明してしまいましたが、これは耳で聞こえる音の対策であって、「低周波騒音」ないしは「超低周波騒音」といって人体に危害を与える騒音があります。これは耳に聞こえませんが、圧力波としての振幅は大きいのでいろいろなものが振動します。筆者が那須(栃木県県北地方)に住んでいた際、伊豆半島付近の火山活動がありました。火山の音は聞こえなかったのですが窓ガラスは振えていました。周波数が低いのでなかなか減衰せずに遠くまで伝わります。周波数が低いと騒音計の低周波側の周波数特性の範囲外となるので測定が難しくなります。直流成分が測定できる圧力センサーが必要になると考えます。騒音対策手段としての遮音と吸音も効果がありませんので、対策はかなり難しくなります。
今回は騒音計の使い方に終始しました。たかが騒音計ですが知っておくべきことはいろいろあるようです。次回から騒音対策技術の中身に入っていきます。まずは、遮音と吸音についてです。 (次回へ続く)
高橋 良一(たかはし りょういち)
RTデザインラボ 代表
1961年生まれ。技術士(機械部門)、計算力学技術者 上級アナリスト、米MIT Francis Bitter Magnet Laboratory 元研究員。
構造・熱流体系のCAE専門家と機械設計者の両面を持つエンジニア。約40年間、大手電機メーカーにて医用画像診断装置(MRI装置)の電磁振動・騒音の解析、測定、低減設計、二次電池製造ラインの静音化、液晶パネル製造装置の設計、CTスキャナー用X線発生管の設計、超音波溶接機の振動解析と疲労寿命予測、超電導磁石の電磁振動に対する疲労強度評価、メカトロニクス機器の数値シミュレーションの実用化などに従事。現在RTデザインラボにて、受託CAE解析、設計者解析の導入コンサルティングを手掛けている。⇒ RTデザインラボ
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