マツダは、ダッソー・システムズ主催の年次コミュニティーカンファレンス「SIMULIA Community Virtual Conference Japan 2021」のユーザー事例講演に登壇し、「量産開発適用に向けた効率的な風切り音予測および分析手法について」をテーマに、音源寄与度分析および簡易モデルを用いた車内音予測手法による効率化の取り組みを紹介した。
ダッソー・システムズは2021年6月15日〜7月9日までの期間、シミュレーションソフトウェアブランド「SIMULIA」ユーザーのための年次コミュニティーカンファレンス「SIMULIA Community Virtual Conference Japan 2021」を開催。そのユーザー事例講演として、マツダ 車両開発本部 NVH性能開発部 NVH性能先行技術開発グループの山本晃平氏が登壇し、「量産開発適用に向けた効率的な風切り音予測および分析手法について」をテーマに同社の取り組みを紹介した。本稿では、山本氏の講演をダイジェストでお届けする。
近年の技術発展を背景に、自動車開発における「風切り音解析」は一般的なものとなりつつある。しかし、車内音解析には大規模なCFD(Computational Fluid Dynamics:数値流体力学)計算が必要で、かつ量産開発での形状設計は非常に短期間で行われることから、パラメータスタディでの繰り返しによって最適な形状を求めることが難しい。そのため、量産開発での設計形状評価や改善検討への適用はまだ困難な状況にあると言わざるを得ない。
こうした課題に対して、マツダでは従来の流体的観点に加えて、振動騒音的観点からの分析を取り入れることで、大規模CFD計算を最小限に抑え、効率的に形状評価や改善検討を可能とする技術構築を進めている。講演ではその一部を紹介した。
同社は、短期間で良い形状を求めるには、設計因子の絞り込みとその計算時間をいかに抑えるかが重要であるとの考えから、設計因子を絞り込む手法として「音源寄与度分析」を、計算時間を抑える手法として「簡易モデルを用いた車内音予測」を活用した効率化に取り組んでいる。
「風切り音」とは、空気の流れによって生じる騒音のことである。その音源は、主に流速で伝播する波である「対流成分」と、音速で伝播する波である「音響成分」とに分類される。対流成分は圧力変動レベルは大きいが室内に透過しづらく、音響成分は圧力変動レベルは小さいが室内に透過しやすいという特徴がある。特に、高周波数域においては音響成分による透過音が支配的となり、「このような帯域においては、空気伝播音解析の手法を適用することが可能だ」(山本氏)という。
空気伝播音領域において、設計因子を絞り込む手法として「音源寄与度分析」がある。これは、評価点に対する音源の寄与度Piは、音源の体積速度Qiと伝達関数(感度)Hiの積で表すことができるというものだ。例えば、エンジン放射音からの寄与度P1は音源の体積速度Q1と伝達関数H1の積で、タイヤ放射音についても、前輪からの寄与度P2は体積速度Q2と伝達関数H2の積で、後輪からの寄与度P3は体積速度Q3と伝達関数H3の積で表せる。そして、「この中で音源レベルが大きい、または感度レベルが大きい、あるいはその両方の経路を優先的に対策することが設計因子を絞り込むための手法となる」と山本氏は説明する。
ただし、風切り音の場合、その音源は空間に広く分布しているため、音源位置を加振して感度を評価することは非効率といえる。その一方で、振動騒音の分野では、音源と評価点の位置を入れ替えても感度は等しくなるという相反定理があることで知られている。そこでマツダはこの定理を利用することとし、「評価点である耳位置を音響加振し、音源の位置の音圧応答を取ることでも求める感度は一緒になると判断。効率の観点から、評価点に単位体積速度音源を与えた際の音源位置の音圧応答をCAEで評価する」(山本氏)ことにした。
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