続いて、山本氏は簡易モデルによる車両音予測手法について紹介した。冒頭で述べた通り、音源をCAE上で求めるには大規模な計算が必要となる。そうしたこともあり、車両開発では、風切り音の音源計測に「ビームフォーミング(BF)」と呼ばれる手法がよく用いられる。具体的には、マイクロホンアレイを車両から離れた場所に設置し、そこに到来する音波を計測することで車両表面における音源分布を推測するというアプローチだ。
マツダではビームフォーミングによる計測結果をいったん音源と仮定し、別途、感度を求めることで、簡易的に車内音を予測することができないかと考えた。「そこで、まずは実験ベースで予測手法の有効性を確認し、その後、机上化を検討するという流れで進めることにした」(山本氏)という。
今回提案する手法では、Wave6がサポートするPythonのスクリプト機能を活用して、ビームフォーミングの計測結果をWave6上の車両モデル表面にマッピング。その後、マッピングした計測結果の分布に対して、Aピラーやミラーなど、音源部位ごとに空間平均を行い、その平均化された音圧レベルを音源の大きさとして仮定した。感度についても1点ずつ実車で計測を行い、こちらも音源部位ごとに空間平均した値を使用。そして、各部位の音源と感度の積を求め、足し合わせることで車内音を計算した。
実際に、この提案手法で2車種間(車両C、車両D)の車内音の相対変化を予測し、その精度を検証したところ、実測結果と比較して、予測結果でも2車種間における車内音の相対変化について概ね良好な精度で予測できていることを確認できた。「よって、実験ベースであれば車内音の相対変化をある程度予測可能であることが明らかになったので、今後は机上化を進めていくステップに入る」(山本氏)。
今後の課題として、音源のモデル化については、CFDの予測結果とビームフォーミングの計測結果を相関付け、予想モデルを構築。また、感度のモデル化については車両構造と音場をSEAでモデル化していくという。山本氏は「まだ現在進行中の技術開発だが、この技術の完成により、およそ一晩(10時間)程度での車内音予測が可能になると見込んでいる」と、解析工数の大幅な削減に期待を寄せる。
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