マツダが取り組む音源寄与度分析、簡易モデルを用いた車内音予測手法による効率化事例:SIMULIA Community Virtual Conference Japan 2021(3/3 ページ)
続いて、山本氏は簡易モデルによる車両音予測手法について紹介した。冒頭で述べた通り、音源をCAE上で求めるには大規模な計算が必要となる。そうしたこともあり、車両開発では、風切り音の音源計測に「ビームフォーミング(BF)」と呼ばれる手法がよく用いられる。具体的には、マイクロホンアレイを車両から離れた場所に設置し、そこに到来する音波を計測することで車両表面における音源分布を推測するというアプローチだ。
簡易モデルによる車両音予測 ※出典:マツダ [クリックで拡大]
マツダではビームフォーミングによる計測結果をいったん音源と仮定し、別途、感度を求めることで、簡易的に車内音を予測することができないかと考えた。「そこで、まずは実験ベースで予測手法の有効性を確認し、その後、机上化を検討するという流れで進めることにした」(山本氏)という。
今回提案する手法では、Wave6がサポートするPythonのスクリプト機能を活用して、ビームフォーミングの計測結果をWave6上の車両モデル表面にマッピング。その後、マッピングした計測結果の分布に対して、Aピラーやミラーなど、音源部位ごとに空間平均を行い、その平均化された音圧レベルを音源の大きさとして仮定した。感度についても1点ずつ実車で計測を行い、こちらも音源部位ごとに空間平均した値を使用。そして、各部位の音源と感度の積を求め、足し合わせることで車内音を計算した。
提案手法 ※出典:マツダ [クリックで拡大]
実際に、この提案手法で2車種間(車両C、車両D)の車内音の相対変化を予測し、その精度を検証したところ、実測結果と比較して、予測結果でも2車種間における車内音の相対変化について概ね良好な精度で予測できていることを確認できた。「よって、実験ベースであれば車内音の相対変化をある程度予測可能であることが明らかになったので、今後は机上化を進めていくステップに入る」(山本氏)。
精度検証結果 ※出典:マツダ [クリックで拡大]
今後の課題として、音源のモデル化については、CFDの予測結果とビームフォーミングの計測結果を相関付け、予想モデルを構築。また、感度のモデル化については車両構造と音場をSEAでモデル化していくという。山本氏は「まだ現在進行中の技術開発だが、この技術の完成により、およそ一晩(10時間)程度での車内音予測が可能になると見込んでいる」と、解析工数の大幅な削減に期待を寄せる。
⇒ 「メカ設計 イベントレポート」のバックナンバーはこちら
- タテとヨコのデジタル化によるコマツの設計プロセス改革とシミュレーション活用
ダッソー・システムズ主催の「SIMULIA」ユーザー向け年次カンファレンス「SIMULIA Community Virtual Conference Japan 2021」において、小松製作所 開発本部 油機開発センタ シニアエキスパートエンジニアの横山佑喜氏が登壇し、「コマツの設計プロセス改革におけるシミュレーション活用事例」をテーマに、同社 油機開発部門における取り組みを紹介した。
- トヨタが挑戦する3Dプリンタ×ジェネレーティブデザインによる次世代モノづくり
ダッソー・システムズ主催のオンライン年次カンファレンス「3DEXPERIENCE CONFERENCE JAPAN 2021」において、「ジェネレーティブデザインの検討事例」と題し、トヨタ自動車の取り組みを紹介する業界別セッションが行われた。トヨタ自動車はなぜ「Function Driven Generative Designer」を導入したのか。その背景や狙いについて語られた。
- フォークボールはなぜ落ちる? スパコンによる空力解析で謎を初めて解明
野球のピッチャーの決め球、フォークボールはなぜ落ちるのか? これまでボールの回転数が少ないことで自然落下による放物線に近い軌道を描くとされていたが、東京工業大学 学術国際情報センター 教授の青木尊之氏を代表とする研究チームがスーパーコンピュータ「TSUBAME3.0」による数値流体シミュレーションを実施し、その謎を初めて解明した。
- 「富岳」で新型コロナ飛沫の大量計算を実施、感染リスクはどこにある?
理化学研究所のスパコン「富岳」を用い、コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する飛沫の飛散シミュレーションが実施されている。理化学研究所が独自開発する流体シミュレーションソフトウェア「CUBE」による飛散シミュレーションの概要、注目すべき結果などについて、理化学研究所 計算科学研究センター チームリーダー/神戸大学大学院システム情報学研究科 教授の坪倉誠氏に話を聞いた。
- ヤマ発が語る、バイク開発に不可欠な「ほこり入り解析」の新手法とその妥当性
ヤマハ発動機は、オンラインイベント「3DEXPERIENCE CONFERENCE JAPAN 2020 ONLINE」において、「モーターサイクルのほこり入りCFD解析について」と題し、CFDソリューション「PowerFLOW」をモーターサイクル(オートバイ)開発に適用した取り組みについて紹介した。
- 「姫野ベンチ」の生みの親が語るCFDの実務適用の勘所
構造計画研究所は「SBDソリューションカンファレンス2019」(会期:2019年5月10日)を開催した。本稿では、理化学研究所 情報システム部 研究開発部門 コーディネータの姫野龍太郎氏の特別講演「CFDの実務適用の勘所」について取り上げる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.