「姫野ベンチ」の生みの親が語るCFDの実務適用の勘所SBDソリューションカンファレンス2019(1/2 ページ)

構造計画研究所は「SBDソリューションカンファレンス2019」(会期:2019年5月10日)を開催した。本稿では、理化学研究所 情報システム部 研究開発部門 コーディネータの姫野龍太郎氏の特別講演「CFDの実務適用の勘所」について取り上げる。

» 2019年05月23日 08時30分 公開
[長町基MONOist]

 構造計画研究所は2019年5月10日、「SBDソリューションカンファレンス2019」を開催した。同カンファレンスは、CAE(Computer Aided Engineering)を活用したモノづくりに取り組む技術者が知見を共有し、新しい気付きを得ることでより良い製品開発につなげることを目指し毎年開かれている。

 今回は基調講演の他、「構造・最適化」「熱流体・粉体」「設計者CAE」「製薬・食品」の4つのセッションに分かれ、計16の事例講演を実施。また、「CFD(数値流体力学:Computational Fluid Dynamics)の実務適用の勘所」をテーマに、理化学研究所 情報システム部 研究開発部門 コーディネータの姫野龍太郎氏が特別講演を行った。本稿では、姫野氏の特別講演の内容を中心にお届けする。

これから流体解析を実務に適用していく際の“近道”とは?

理化学研究所 情報システム部 研究開発部門 コーディネータの姫野龍太郎氏 理化学研究所 情報システム部 研究開発部門 コーディネータの姫野龍太郎氏

 まず、姫野氏は大手自動車メーカーの技術者であった1990年代当時、コンピュータの進化により、自動車の流体解析が急速に設計の実務に適用されていったことを紹介。「およそ10年間で、エンジンルームの主要部品やドアミラーなど、(サイズでいうと)10mm以上ある部品がデータで再現された状態で計算できるようになった。これほどの進歩は、当時全く想像の付くものではなかった。こうした変化の背景には、約10年で5倍というコンピュータの演算速度の高速化が挙げられる。コスト面でも5年間で約10分の1になった」(姫野氏)という。

 また当時、空力計算を行った際、2次元の計算と実験値が合わなかったことで大変苦労したという。このような出来事に対し、姫野氏は「この経験は非常に重要だ。違うものと比べるのはダメで、理想流体を仮定した方が実験値と計算値が一致する。ここに本質がある。世の中に2次元の流れは存在しない。あるのは3次元的な流れであり、流れが剥離しなければ3次元的な流れの影響はない。剥離が起こると流れは3次元的になる。当時、そのまま2次元での計算に固守し続けていれば発展はなかっただろう。何が枝葉末節なのかを考えて、本質的に重要なものは何かを考える必要がある」と言及した。

 そして、こうした教訓を踏まえ、これから流体解析を実務に適用していく際の“近道”として、姫野氏は「なるべく簡略化することを考えるべきだ」と指摘する。例えば、問題の本質は何かを考え、「ここは省略できそうだ」などの仮定をどんどん取り入れることが重要だという。また、解析を進める上でのアプローチとして、

  • いきなり複雑なケースに挑戦しない
  • 単純なケースから順番に近づけていく

ことを提案する。

最も難しい「乱流モデル」とどう向き合うべきか?

 さらに講演では、流体解析における具体的な計算方法を検討する際のポイントとして、

  • 境界層を解像することの必要性(境界適合格子[空間分割に用いられるメッシュで境界に沿ったもの]を用いる場合は必須、直交格子型は不要)
  • 計算対象の形状の複雑さ(境界適合は単純、直格子型は複雑)
  • 形状や境界の時間的な変化(境界適合:あらかじめ変化が想定可能、自由表面:直格子型の境界補足、気泡)などの物理的な側面
  • 解析に費やす期間(どのくらいの時間で結果を出さなければならないのか)
  • 精度
  • 使用回数

といった点を挙げた。

 このうち境界適合格子を用いるのは、ファン、タービン、流体機械や航空機、自動車、列車、流体力学的に設計された管路など、剥離の起こる境界層で決まる場合(Re数[レイノルズ数]で流れが変わる)。これに対し、直交格子型はエンジンルームおよび室内空調、細かいリブの付いたフレキシブルチューブ、直角で曲がる管路など、剥離の起こる場所が境界層で決まらない場合(Re数で流れが変わらない)となる。

 また、流れのシミュレーション(流体解析)の中で最も難しいのが乱流モデルの取り扱いだという。このケースに取り組む場合、似た問題を扱っている論文を参照し、同じモデルを使うことが手っ取り早い方法だが、姫野氏は「まずは『乱流モデルなし』で計算することを推奨している。ただ、乱流モデルが入っていても計算メッシュを増やすことにより、必ず実験値と合う方向に改善されるので、その方が効率的により良いシミュレーション結果が得られることが多い」と説明する。

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