ヤマ発が語る、バイク開発に不可欠な「ほこり入り解析」の新手法とその妥当性3DEXPERIENCE CONFERENCE JAPAN 2020 ONLINE(1/3 ページ)

ヤマハ発動機は、オンラインイベント「3DEXPERIENCE CONFERENCE JAPAN 2020 ONLINE」において、「モーターサイクルのほこり入りCFD解析について」と題し、CFDソリューション「PowerFLOW」をモーターサイクル(オートバイ)開発に適用した取り組みについて紹介した。

» 2020年07月17日 06時30分 公開
[八木沢篤MONOist]

 ヤマハ発動機は、オンラインイベント「3DEXPERIENCE CONFERENCE JAPAN 2020 ONLINE」(主催:ダッソー・システムズ/期間:2020年7月14日〜8月7日)のカテゴリー別セッション[自動車・輸送機器・モビリティ]において、「モーターサイクルのほこり入りCFD解析について」と題し、ダッソー・システムズのCFD(流体解析)ソリューション「PowerFLOW」をモーターサイクル(オートバイ)開発に適用した取り組みについて紹介した。

モーターサイクル開発におけるほこり入り解析の必要性

 ヤマハ発動機が主力とするモーターサイクルの市場規模について、登壇者である同社 車両実験部 車両解析グループの新田慶氏は「世界全体におけるモーターサイクルの生産台数は、年間約5000万台といわれている。ヤマハ発動機の年間生産台数はおよそ500万台で、そのうち約430万台がアジア市場向けとなっている」と語る。

 そして、このように製品をグローバル展開するためには、「さまざまな環境下で使用されることを、あらかじめ想定しておかなければならない」(新田氏)とし、同氏が所属する車両解析グループでは、CFD解析を用いたさまざまな机上検討に取り組んでいるという。

 その一例となるのが、本講演の主題である「ほこり入り解析」だ。

ほこり入り解析について 〜エアクリーナの機能〜 ほこり入り解析について 〜エアクリーナの機能〜 ※出典:ヤマハ発動機 [クリックで拡大]
ヤマハ発動機 車両実験部 車両解析グループの新田慶氏 ヤマハ発動機 車両実験部 車両解析グループの新田慶氏 ※出典:ヤマハ発動機

 土や砂を由来とする“ほこり”の立ちやすい環境下でのモーターサイクル使用においては、各種吸気口から清浄な空気を取り入れ、エンジンが必要とする量をしっかりと吸入することが望まれる。こうしたエアクリーナの主たる機能と防ぐべき事象、スタイリングなどの要件を高いレベルで満たしながら製品を具現化するために、同社では、ほこり入り解析をモーターサイクル開発プロセスの中に組み込んでいる。

 講演では、同社の海外向けモデル「NOZZA GRANDE(ノザ グランデ)」を対象とした、ほこり入り解析の取り組みについて紹介した。

 Nozza Grandeは、同社がベトナム市場向けに展開する125ccスクーターで、土や砂ぼこりが舞う環境下での使用が想定されることから、「製品開発段階から吸気口へのほこり入りについては注視していた」(新田氏)。

流れとほこりの輸送:従来手法の課題と新アプローチ

 これまで同社が行ってきたほこり入り解析では、流れ場には「RANS(レイノルズ平均モデル)」を、砂ぼこりには「拡散ガス」を適用することによって、現象の再現を試みていた。しかし、エアクリーナ内でのほこり濃度に着目してみると、実機結果と解析結果が乖離(かいり)するケースが散見された。

ほこり入り解析について 〜流れとほこりの輸送〜 ほこり入り解析について 〜流れとほこりの輸送〜 ※出典:ヤマハ発動機 [クリックで拡大]

 「流れ場にRANSを用いる場合、ほこりの輸送は、移流+渦のモデル計算で求められた渦粘性係数と濃度勾配に比例する。しかし、渦のモデル計算を用いると、ほこり輸送が十分ではなく、詳細に渦を解く必要があることが分かった。また、ほこりに関しては、タイヤ表面からほこりを模擬した拡散ガスが流入するという条件になっているが、この手法では質量や粒子径分布が設定されていないため、粒子径の差異による慣性力の違いを考慮することができない」(新田氏)

 同社はこれらの改善策として、流れ場に関しては「LES(ラージエディシミュレーション)」を、ほこりに関しては「質量や粒子径分布をもった粒子」を適用することにした。だが、実際に検討を進めてみたところ、「自社内の計算リソースでは、計算精度と時間のバランスから、実運用には適さないことが分かった」(新田氏)という。

ほこり入り解析について 〜課題とPowerFLOW選定の理由〜 ほこり入り解析について 〜課題とPowerFLOW選定の理由〜 ※出典:ヤマハ発動機 [クリックで拡大]

 そこで、実運用可能な解析環境として候補に挙げられたのがPowerFLOWだ。「十分なコア数を備えたクラウドサービスとして提供され、格子ボルツマン法を採用し、さまざまな粒子流入と可視化が可能なPowerFLOWによる解析について検討することにした」(新田氏)。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.