京都大学アイセムスは、蛍光分子1個の感度を持ち、究極の速度で撮像できる顕微鏡用カメラを開発した。細胞膜上の分子が動き回る様子や、生きている細胞内の構造を超解像の精度で観察できる。
京都大学アイセムスは2023年5月25日、蛍光分子1個の感度を持ち、究極の速度で撮像できる顕微鏡用カメラを開発したと発表した。細胞膜上の分子が動き回る様子や、生きている細胞内の構造を超解像の精度で観察できる。沖縄科学技術大学院大学、フォトロンとの共同研究による成果だ。
同カメラは、撮像速度は速いがノイズの大きいカメラを使用し、ノイズが1分子の検出に影響を与えないように工夫して開発した。撮像速度は1秒間に3万コマで、これまで観察に用いられていた通常ビデオの1000倍の速度に相当する。
細胞膜の分子を同カメラを用いて観察したところ、分子が動き回る様子を捉えることができた。細胞膜分子は細胞膜全体を乱雑に動き回っていると考えられていたが、実際は線維状高分子のアクチンで仕切られた区画内で激しく動き回りつつ、時々、隣の区画に移動することが分かった。この区画があることで、細胞膜の各所で異なる機能を有することが示唆された。
次に、ガン細胞の転移を担う接着斑の構造とそこでの分子の集まり方や動き方について観察した。その結果、通常の蛍光顕微鏡画像では大陸のように見えていた接着斑が、実は多数の小島が集合した群島構造であることが示された。
また、超高速点描法により、生きている細胞にある構造体の変化を観察。超解像の精度で、接着斑にある小島が1分間のうちに大きく変化する様子を確認できた。小島は単体で働くのではなく、直径320nmほどの小さな集合体を形成し、これが機能ユニットとして働いていることが明らかとなった。
小島の隙間には液体状の細胞膜があり、これも区画に分かれていた。小島の隙間にある細胞膜には、接着斑に関係ない分子も自由に出入りしており、接着斑の内外でホップ拡散していた。
接着斑は、ガン細胞の転移や増殖を担う構造だ。それが変化する様子や分子の群舞の様子を確認できたことで、ガン細胞の転移を阻止する薬剤の開発が期待される。
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