パナソニックHDは、2022年度の連結業績を発表。部材高騰やサプライチェーン混乱などの影響を色濃く受け通年では厳しい結果となったが、米国IRA法による好影響なども出始め、2023年度については改善が進む見通しを示している。
パナソニック ホールディングス(以下、パナソニックHD)は2023年5月10日、2022年度(2023年3月期)の連結業績を発表。部材高騰やサプライチェーン混乱などの影響を色濃く受け通年では厳しい結果となったが、米国IRA(Inflation Reduction Act)法による好影響なども出始め、2023年度については改善が進む見通しを示している。
パナソニックHDの2022年度連結業績は、売上高が前年度比13%増の8兆3789億円、調整後営業利益が同12%減の3141億円、営業利益が同19%減の2886億円、税引き前利益が同12%減の3164億円、当期純利益が同4%増の2655億円となった。部材不足やサプライチェーンの混乱、為替影響などが直撃したことから、全体的に苦戦した1年となったが、2023年2月に示した予想値に比べると上振れした結果となり、第4四半期にかけて徐々に好転しつつあることを示した。
パナソニックHD 代表取締役 副社長執行役員 グループCFOの梅田博和氏は「上期は大きな減益となったのが、下期は増益となっており好転している。原材料やサプライチェーンの乱れによって各事業が大きな影響を受けたが、事業会社や事業部門などのさらに詳細なラインまで情報を集めて取り組みを進めてきたので、その成果が表れた」と手応えについて語っている。
セグメント別で見ると、くらし事業は重点事業である欧州空調事業と、国内外の電材事業、北米ショーケース事業が堅調で増収となったものの、国内家電事業の販売減少の影響から減益となった。オートモーティブは、自動車生産の回復に加え、部材高騰や為替影響に対する価格改定が進み増収増益となっている。コネクトは、航空領域や海外向け堅牢モバイル端末の伸長、ブルーヨンダーの販売成長により、増収増益となった。インダストリーは、EV(電気自動車)リレーや産業用リレー、環境車用コンデンサーの販売増はあったものの、原材料高騰や下期からの市況悪化などに影響から減収減益となった。エナジーは、EV向け電池の需要拡大で販売拡大があり増収となったものの、原材料高騰や車載以外の電池の不振、将来に向けた開発費の増加などから減益となった。
今後も含めて、業績改善の大きな後押しとして期待されているのが、米国IRA法の影響だ。IRA法は、過度なインフレの抑制とエネルギー政策を推進する法律であり、エネルギー関連製品に対する税控除などを行っている。EV向け電池などの販売に関する税控除を行うSection 45X(Advanced Manufacturing Production Credit)では、米国内で生産した電池セルを販売した場合、1kWh当たりで35ドルの税控除などが受けられる。パナソニックHDでは既にTesla(テスラ)と共同で取り組むネバダ州の工場で年間約38GWh分のEV用電池を生産しており、この法律による補助の対象となっている。
IRA法補助金の現金化手段には「法人税の還付」「直接給付」「第三者への権利売却」の3つがある。これらの適用方法についての細則はまだ発表されていないが、パナソニックHDでは2022年度第4四半期に法人税の還付として400億円を計上している。また、2023年度については直接給付の形が取れるとし、調整後営業利益としてエナジーセグメントに800億円を組み込む計画だ。梅田氏は「ネバダ州の工場における総補助額は1600億円となる見込みだ。ただ、自社だけでできる話ではないので、半分となる800億円を当社内に組み込み、残りの半分は関係会社と協議しながら、IRA法の趣旨を考えながらそれに沿った使い方を検討する」と述べている。
現在パナソニックHDでIRA法の対象となる工場は、ネバダ州のEV用電池工場だけだが、今後は2024年度中に量産を開始するカンザス工場についても含まれることになる。IRA法の予算状況にもよるが、生産をし続けている限り補助が得られるため、ネバダ州の工場だけでも毎年総額で1600億円規模の補助が受けられることになり、カンザス州工場の状況次第ではもっと大きな額の補助が継続的に得られる見込みだ。梅田氏は「法律の条件や予算、関係会社の状況などでも変わってくるが、現在準備している競合他社があることを見ても、数年間は恩恵が受けられる見込みだ。もちろんEV需要が低迷すれば、電池の生産量も下がるが現在の引き合いを見ていると、むしろ生産性向上を進めて生産量を増やし、補助額が増えることも想定される」と今後の見通しについて話している。
これらを受け2023年度の通期業績見通しも改善が進む見込みだ。売上高は2022年度比1%増の8兆5000億円、調整後営業利益は同37%増の4300億円、営業利益は同49%増の4300億円、税引き前利益は同44%増の4550億円、当期純利益は同32%増の3500億円を見込んでいる。
セグメント別の見通しとしては、まだら模様だ。好調な欧州の空調や海外の電材が引き続き伸長するくらし事業は、家電事業も回復が進む見込みで、増収増益を予想する。オートモーティブは自動車生産の回復がさらに進み需要もさらに高まると予想する。コネクトは航空機関連の需要が旺盛で「好調だったコロナ禍前の9割にまで回復する」(梅田氏)。ただ、PC端末やスマートフォン端末の需要減で生産設備の投資減速は続く見込みだ。
低迷するインダストリーは厳しい環境が続き減収減益となる見込みだ。ICT端末向けがコロナ禍特需の反動減が続く他、サーバやデータセンター向け投資も抑制が続く見込みだ。さらに、中国FA市場も投資抑制傾向だ。それでも下期には徐々に回復が進むと予想する。エナジーについては、IRA法の恩恵が受けられる他、米国の車載向け電池が好調で順調な成長が期待される。ただ、産業および民生用電池は2022年から市場環境が悪化しており、こちらは第2四半期後半から徐々に回復するという見通しを立てている。
また、車載用電池として期待されている新型リチウムイオン電池セル「4680」については、当初は2023年度中の量産を開始するとしていたが、これを延期し「2024年度上期の量産開始」とする。その理由について梅田氏は「当初はカンザス州の新工場でいきなり4680セルを量産する可能性もあったが、2170セルで生産を開始することを決めたことで、時間的な猶予が生まれた。そこで容量の改善に注力し、容量を増やした次のステップで量産を行う計画に切り替えた」と説明している。
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