製造業DXの重要性は理解しても投資進まず、IT人材も足りない国内企業ものづくり白書2022を読み解く(2)(4/4 ページ)

» 2022年08月22日 08時00分 公開
[長島清香MONOist]
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「フィジカルインターネット」による物流の高度化

 サプライチェーンにおいて拠点間をつなぐ物流は重要な要素である。2022年版ものづくり白書では新たな物流システムのコンセプトとして「フィジカルインターネット」を紹介している。フィジカルインターネットとは、インターネット通信の考え方を物流にも適用し、IoTやAI(人工知能)技術の活用により、貨物や倉庫、車両の空き情報などを見える化して、規格化された輸送容器の中の貨物を、複数企業の物流資産(倉庫、トラックなど)をシェアしたネットワークで輸送する、という共同輸配送システムの構想だ。フィジカルインターネットは、物流効率化による産業競争力の強化に加え、温室効果ガスの削減といったさまざまな社会的価値をもたらす可能性があると評価している。

 日本におけるフィジカルインターネットの実現に向けて、経済産業省と国土交通省では2040年を目標として、産官学の関係者で構成される「フィジカルインターネット実現会議」を2021年10月に立ち上げた。2010年代前半から始まった物流コストの上昇やトラックドライバーの減少、高齢化や、「物流の2024年問題」を回避し物流の効率化を徹底していくために、同実現会議において、「フィジカルインターネット・ロードマップ」(以下、ロードマップ)を2022年3月に取りまとめている(図19)。今後は、ロードマップを産業界へ広く共有するとともに、関係省庁で連携しつつ、フィジカルインターネットの実現に向けた具体的な取り組みを進める見通しだ。

■図19:フィジカルインターネットが実現する価値[クリックして拡大] 出所:2022年版ものづくり白書

中小製造業にセキュリティ対策は待ったなし

 2021年版ものづくり白書では、製造業でIT(情報技術)とOT(制御技術)の融合が進んだ結果、これまでインターネットに接続されていなかった生産設備やコンピュータなどがつながることで、中小企業も含めたサプライチェーン全体のサイバーセキュリティ対策の重要性が一層増すと予見していた。

 事実、中小企業におけるサイバー攻撃による被害は数多く発生しており、ランサムウェア被害件数の内訳は中小企業が過半数を占めている(図20、21)。また情報処理推進機構の実証事業を通じて、中小企業に対しサイバー攻撃の探索活動である「ポートスキャン」が数多く行われていることも確認された。

■図20:企業・団体等におけるランサムウェア被害の報告件数の推移[クリックして拡大] 出所:2022年版ものづくり白書
■図21:被害企業・団体等の規模別報告件数[クリックして拡大] 出所:2022年版ものづくり白書

 この実証事業に参加した2181社の中小企業のうち、ランサムウェアや「トロイの木馬」などのウイルスを検知、無害化を実施した件数が1345件に上ったことも報告された。同機構は報告書の中で、中小企業は「業種や規模を問わず不審な通信等の脅威にさらされており、ウイルス対策ソフト等の既存の対策では防ぎきれていない実態が明らかとなった」と指摘している(図22)。

■図22:サイバーセキュリティお助け隊事業の報告書サマリー[クリックして拡大] 出所:2022年版ものづくり白書

 一方で、同機構が2021年度に実施した「中小企業における情報セキュリティ対策に関する実態調査」によると、情報セキュリティ関連の被害防止のため講じている組織体制や制度面の対策として「重要なシステム・データのバックアップ」(37.5%)に次いで、「セキュリティ対策を特に実施していない」とする回答が約3割に上っている。中小企業に対して、サイバーセキュリティ対策の必要性のさらなる訴求とともに、対策実践に向けた支援の必要性も明らかになった(図23)。

■図23:中小企業のセキュリティ対策状況[クリックして拡大] 出所:2022年版ものづくり白書

 これらを背景に同機構では、中小企業のセキュリティ対策に不可欠な、システムの異常監視や緊急時の対応支援、簡易サイバー保険、相談窓口といったサービスをワンパッケージで安価に提供することを要件としてまとめた「サイバーセキュリティお助け隊サービス基準」を策定している。同基準を満たす民間のサービスを「サイバーセキュリティお助け隊サービス」として登録、公表して、これらのサービスの普及を促進し、幅広い中小企業において無理なくサイバーセキュリティ対策を導入、運用できるよう支援する(図24)。

■図24:サイバーセキュリティお助け隊サービスの概要[クリックして拡大] 出所:2022年版ものづくり白書

 カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミーなど世界的な社会問題に向き合うためにもDXは必須だ。しかしながら、データを見る限り日本の製造業のDXはまだこれからという段階にある。世界に目を向ければ、インダストリー4.0を進めるドイツのように、着実にその歩みを進めている国は幾つもある。これから世界の潮流に乗り遅れないためにも、製造業全体としてサイバーセキュリティ対策や国際標準開発競争への意識を高め、またそれをサポートする仕組みを整えていく必要があるのではないだろうか。

 第3回では、デジタル化の推進に向けたモノづくり人材の確保と育成や、デジタル社会を支える教育および研究開発紹介の取り組み、またカーボンニュートラルへの取り組みについて紹介する。

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筆者紹介

長島清香(ながしま さやか)

編集者として地域情報誌やIT系Webメディアを手掛けたのち、シンガポールにてビジネス系情報誌の編集者として経験を重ねる。現在はフリーライターとして、モノづくり系情報サイトをはじめ、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。


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