東京慈恵会医科大学は、近赤外光に反応する化合物と抗体を組み合わせ、光照射により特定の病原体のみを選択的に除去できる治療戦略を開発した。常在菌に影響を与えず、細菌、真菌、ウイルスなどの微生物病原体に対して利用できる。
東京慈恵会医科大学は2022年7月4日、近赤外光に反応する化合物と抗体を組み合わせ、光照射により特定の病原体のみを選択的に除去できる治療戦略(photoimmuno-antimicrobial strategy:PIAS)を開発したと発表した。産業医科大学、横浜市立大学、米国国立がん研究所との共同研究による成果だ。
PIASでは、標的となる病原体のみを認識するモノクローナル抗体に、近赤外光に反応するIR700などの化合物を結合させた光反応性抗体を使用する。まず、黄色ブドウ球菌を選択的に認識するモノクローナル抗体にIR700を結合させ、対黄色ブドウ球菌用の光反応性抗体を合成。この光反応性抗体が結合した黄色ブドウ球菌は、近赤外光を受けると数分で死滅した。
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などを含む、黄色ブドウ球菌の薬剤耐性株でも、同様の殺菌効果が得られた。一方で、この抗体が結合しない表皮ブドウ球菌や大腸菌に影響はなかった。
真菌であるカンジダ菌や新型コロナウイルスについても、それぞれを選択的に認識する光反応性抗体を合成した。近赤外光を受けると、これらについても同様の効果が得られることを確認した。
抗菌剤による治療は、薬剤耐性菌に対する効果が薄く、病原体以外の常在菌が死滅することで腸内細菌のバランスが乱れるといった問題があった。今回開発した手法は、細菌、真菌、ウイルスなどの微生物病原体に対して利用できる。常在菌に影響を与えることがないため、これまで制御困難だった多剤耐性病原体などに対する新たな治療法として実用化が期待される。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.