ブレグジット後の英国で加速するポストコロナ時代のデータ駆動型保健医療改革海外医療技術トレンド(85)(1/4 ページ)

本連載第70回や第83回で、ポストコロナの時代における欧州連合(EU)のデータ駆動型健康戦略やデータ越境利用の共通ルールづくりを取り上げたが、Brexit(ブレグジット)後の英国は、どのように対応しているのだろうか。

» 2022年07月15日 07時00分 公開
[笹原英司MONOist]

 本連載第70回第83回で、ポストコロナの時代における欧州連合(EU)のデータ駆動型健康戦略やデータ越境利用の共通ルールづくりを取り上げたが、Brexit(ブレグジット)後の英国は、どのように対応しているのだろうか。

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ゲノム・ビッグデータでCOVID-19政策をけん引する英国保健安全保障庁

 2021年10月1日、英国保健・公的介護省(DHSC)は、英国保健安全保障庁(UKHSA)が新たに業務を開始したことを発表した(図1参照、関連情報)。

図1 図1 英国保健安全保障庁(UKHSA)のWebサイト[クリックで拡大] 出所:GOV.UK「The UK Health Security Agency

 従来は、イングランド公衆衛生庁(PHE)が、国民保健サービス(NHSイングランド)と連携して、イングランド地域の公衆衛生行政を所管する一方、NHSイングランド傘下のNHSテスト&トレースは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関わるPCR検査結果や、DHSCが提供する接触確認アプリケーション「NHS COVID-19」からの情報に基づく接触追跡業務を担ってきた。また、COVID-19感染拡大に対応する地域レベルおよび国家レベルの意思決定を告知するために、エビデンスに基づく客観的な分析、評価、助言を提供することを目的として、2020年5月に合同バイオセキュリティ・センター(JBC)が設置されていた。

 新設されたUKHSAは、PHE、NHSテスト&トレース、JBCを母体として、公衆衛生システムと国家安全保障インフラストラクチャの統合組織として機能することを目的としている。そして、データ分析およびゲノムサーベイランスにおける最新技術や画期的な機能を有効活用しながら、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)や将来の脅威に、地域レベル、国家レベル、グローバルレベルで取り組むことを表明している。

 注目されるのは、UKHSAが、新規変異株評価プラットフォーム(NVAP)の構築/運用業務を担う点だ。NVAPを支える英国独自のシーケンシングおよび変異株評価機能を活用して、英国だけでなく、他の国/地域のCOVID-19対応を支援して、グローバルヘルスの安全保障を強化し、国内外の人々を保護することによって、英国が全ゲノム配列決定(WGS)における世界的リーダーとしての地位を維持するのに、重要な役割を果たすとしている。

 UKHSAによると、英国は、GISAID(鳥インフルエンザデータ共有のためのグローバルイニシアチブ)データベースに、米国に次ぎ世界第2位の規模となる総計約270万人分の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ゲノムを収載している。UKHSAは、新型コロナウイルスのオミクロン種に代表される新規変異株に関する情報源として、世界から注目されてきた(関連情報)。2022年5月23日には、UKHSAが、NVAPによる新規変異株の特定で、9つの国/地域(ブラジル、エチオピア、ケニア、ナイジェリア、パキスタン、チリ、トリニダード・トバゴ、ケイマン諸島、シンガポール)と連携していることを発表している(関連情報)。

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