本連載70回で、欧州のデータ駆動型次世代健康戦略を取り上げたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関わる制限が緩和される中、社会実装に向けた制度的仕組みづくりが本格化している。
本連載70回で、欧州のデータ駆動型次世代健康戦略を取り上げたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関わる制限が緩和される中、社会実装に向けた制度的仕組みづくりが本格化している。
2022年5月3日、欧州委員会の保健・食品安全総局は、「欧州保健データスペース(EHDS)規則」提案(関連情報)を公表し、パブリックコメントの募集を開始した(募集期間:2022年7月26日まで)。また、今回の規則提案に合わせて、EHDSがEUのイニシアチブとして正式に発足したことを発表している(関連情報)。
EHDSは、図1に示す通り、「2020年欧州デジタル戦略」(関連情報)に基づいて、EU市民が自ら保健データをコントロールできるようにするとともに、デジタルヘルスサービスおよび製品向けの単一市場を推進し、保健データの相互運用性とセキュリティおよび製造業者が活動するレベルを保証し、保健データ経済の力を解き放して、保健データを研究やイノベーション、政策決定、規制活動に利用するための一貫した、信頼できる、効率的なフレームワークを保証することを目的としている。
EU法令との関係からみると、EHDSは「一般データ保護規則(GDPR)」(関連情報)、「データガバナンス法」提案(関連情報)、「データ法」提案(関連情報)、「ネットワーク・情報システムの安全に関する指令(NIS指令)」(関連情報)、「サイバーレジリエンス法」提案(関連情報)をベースとしながら、保健セクター固有の要求事項に合わせてカスタマイズしたルールを構築するイニシアチブとなっている。
ここで挙げた法令は、保健のみならず、産業/製造、農業、金融、モビリティ、グリーンディール、エネルギー、デジタルガバメントなど、スマートシティーの機能分類全般に共通するものであり、異業種間/多国間/多地域間データ連携を実現するための枠組を構成するものである。
次に図2は、EHDSが保健データをコントロール、利用、共有する際の課題を整理したものである。
EHDSによると、保健データ利活用に関わる各ステークホルダーは、以下のような課題を抱えているという。
EU加盟国の過半数は、研究や政策決定、規制目的のための電子健康データ再利用に関する特別法を有しておらず、GDPRの一般的な規定に依存している。その結果、保健データの再利用は限定的になっている。全ての加盟国に保健データのアクセスの所管官庁があるわけではないが、所管官庁がある国では、研究または政策決定のための保健データ利用の要望が急増しているという。このような状況下では、保健データの共有時における信頼性の強化と、セキュリティおよびプライバシーの保証が市民にとって重要であり、EHDSの基礎とすべきであるとしている。
その上でEHDSは、ルールや共通の標準規格およびプラクティス、インフラストラクチャ、ガバナンスフレームワークから構成される、保健に特化したエコシステムの実現に向けて、以下の3つを目的に掲げている。
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