EUで加速する保健データ越境利用の共通ルールづくり海外医療技術トレンド(83)(3/4 ページ)

» 2022年05月20日 07時00分 公開
[笹原英司MONOist]

社会実装に向けた保健データ越境連携のポリシーフレームワーク

 なお本連載第70回で取り上げた、フィンランド・イノベーション基金(SITRA)が調整役を担う「欧州保健データスペースに向けた共同行動(TEHDAS)」(関連情報)では、2022年3月31日に「保健データ2次利用向けピアツーピア/越境パートナーシップに関するガイドライン」(関連情報)を公表している。本ガイドラインの中で、図5は、保健データ2次利用向け越境パートナーシップ設定のための主要6ステップを示したものである。

  • ステップ1:潜在的なパートナー間の接点の設定
  • ステップ2:パートナーシップの開始
  • ステップ3:パートナーシップの枠組策定
  • ステップ4:パートナーシップ契約書に関する法律業務と署名
  • ステップ5:パートナーシップのコーミトロジーの定義
  • ステップ6:普及とコミュニケーション活動の定義
図5 図5 保健データ2次利用向け越境パートナーシップ設定のための主要ステップ[クリックで拡大] 出所:TEHDAS 「TEHDAS establishes European guidelines for data partnerships」(2022年3月31日)

 加えて、このガイドラインでは、越境パートナーシップを構築する場合の障壁として、以下のような課題を挙げている。

  • 法律:越境利用は、複雑な規制手順と複数国の価格決定モデルに同時に直面する
  • セキュリティ:データの機微性に起因する高度のサイバーセキュリティおよび倫理の要求事項は、ハーモナイゼーションの課題でもある
  • 資金調達:パートナーシップのフェーズに必要なリソースおよび/または資金調達の仕様を見落としてはならない
  • データ相互運用性:医療機関で利用される情報システムの断片化の観点から、標準規格や相互運用性、手順の欠如は、大規模な学際的な越境プロジェクトにおけるデータ利用を複雑なものにする
  • データ品質:特に、もともと研究目的で収集されていなかった場合
  • 信頼性と透明性:政治的、社会的、組織的要因および市民の関与など

 上記のうち、保健データ2次利用に関わる資金調達の課題については、TEHDASが、2022年4月1日に「EUにおける保健データ2次利用の財源と費用に関する予備調査」(関連情報、PDF)を公表している。図6は、保健データの1次利用(EHDS1)を受けた2次利用(EHDS2)におけるデータライフサイクル管理の持続可能性について検証するためのフレームワークを示している。

図6 図6 保健データ2次利用(EHDS2)向けノード管理サービスの全体イメージ[クリックで拡大] 出所:TEHDAS 「Preliminary study on funding sources and costs of secondary use of health data in the EU」(2022年4月1日)

 TEHDASの報告書では、データマネタイゼーションの観点から、「データ収集」「データアクセス」「データ利用」の3つのステージを設定している。資金調達に関わる分析対象として、EUレベルの各種研究開発支援プログラムのほか、国家レベルでは、フィンランド、オランダ、デンマークの事例を取り上げており、TEHDASプロジェクトの最終年となる2023年に最終報告書をとりまとめるとしている。

 その他、TEHDASでは、「ケーススタディー:欧州の異なるガバナンスと保健データシステム」(2021年9月28日公開、関連情報)、「セマンティックハーモナイゼーション向けの適切な標準規格とデータモデルの特定」(2022年2月3日公開、関連情報)、「欧州ケーススタディーを通じた保健データ2次利用に関する報告書」(2022年2月28日公開、関連情報)、「EHDSにおける保健データ2次利用向けサービスの最小セットの選択肢」(2022年4月5日公開、関連情報)、「中央集権型システムと分散型システムの選択における国家およびEU研究者向けの個人レベルデータへのアクセスに関するステップの記述」(2022年4月6日公開、関連情報)などの研究成果を公表している。各テーマのドキュメントとも、2023年に最終報告書を公表する予定である。

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