EUで加速する保健データ越境利用の共通ルールづくり海外医療技術トレンド(83)(4/4 ページ)

» 2022年05月20日 07時00分 公開
[笹原英司MONOist]
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保健データ利活用のデジタルインフラを担うMyHealth@EU

 なお、EHDSの共通デジタルインフラストラクチャを担うのは、本連載第79回で触れた「MyHealth@EU」である。2022年上半期のEU議長国を務めるフランス政府の「フランスにおけるMyHealth@EUプログラム」(関連情報)によると、欧州委員会が 2011年10月に発表した「コネクティング・ヨーロッパ・ファシリティ(CEF)」(関連情報)を契機に、欧州レベルで患者、医療専門職、保健データの自由な行き来を向上させることを目標とする「eヘルスデジタルサービスインフラストラクチャ(eHDSI)」(関連情報)の構築、運用が進められてきた。現在、電子処方箋と患者サマリーの越境利用が可能であり、EU加盟国のうち22カ国(オーストリア、ベルギー、クロアチア、キプロス、チェコ、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハングリー、アイルランド、イタリア、リトアニア、ルクセンブルク、マルタ、オランダ、ポーランド、ポルトガル、スロベニア、スペイン、スウェーデン)がeHDSIを導入している。2025年までには、スロバキア、ラトビア、ブルガリアでも、利用可能になる予定である。中長期的には、医用画像や検査結果、退院レポートも、EU域内で利用可能になるとしている。

 新型コロナウイルス感染症緊急対応下のEUでは、本連載第61回で取り上げたCOVID-19向けデジタル接触追跡アプリケーションの越境連携エコシステム、第74回で取り上げたEU共通の「EUデジタルCOVID証明書(COVID証明書)」など、各加盟国が分散保有する保健データを、クラウドネイティブなアーキテクチャをベースとする越境連携ゲートウェイ機能を介してつなぎ、域内経済活動の再開、活性化に役立てようとする取り組みが行われてきた。2021年2月には、欧州保健・デジタル政策庁(HaDEA)(関連情報)が新設され、2022年5月には、今回のEHDS規則提案が公表されている。

 同提案に対しては、産業界をはじめ、さまざまなステークホルダーからフィードバックが寄せられている。例えば、欧州製薬団体連合会(EFPIA)は、プライバシー・バイ・デザイン原則の適用や、研究目的の越境データ移転/連携の意義、新規医薬品/医療機器やAI(人工知能)アルゴリズムに関わる臨床試験に参加する患者のダイバーシティーの重要性などを訴えている(関連情報)。

 このようなEHDSの取り組みに対しては、EUを離脱した英国が、2021年7月23日より国民保健サービス(NHS)に保健データ利用登録制度を導入し(関連情報)、同年10月1日には英国保健安全保障庁(UKHSA:UK Health Security Agency)を発足させて、既存の患者登録制度を再編する(関連情報)など、積極的なデータ改革政策を打ち出している。

 折しも、2022年5月4日には「日英デジタル・グループ」が立ち上げられ(関連情報)、同月12日には「日EUデジタルパートナーシップ」(関連情報)が立ち上げられた。日本政府において訪日観光客受け入れ再開に向けた検討が進む中、日本−欧州間の保健医療データ利活用施策の動向も注目される。

筆者プロフィール

笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)

宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所、グロバルヘルスイニシャチブ(GHI)等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。

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