EUで加速する保健データ越境利用の共通ルールづくり海外医療技術トレンド(83)(2/4 ページ)

» 2022年05月20日 07時00分 公開
[笹原英司MONOist]

セキュアな標準プラットフォームが可能にするEU域内の保健データ2次利用

 EHDSは、高いレベルのプライバシーやサイバーセキュリティの要求事項を順守したプラットフォーム環境上で、個人の健康データを1次利用のために標準化、集約化することが、研究やイノベーション、政策決定のために2次利用できる前提条件だとしている。図3は、電子健康記録(EHR)の1次利用と2次利用の関係を示したものである。

図3 図3 電子健康記録(EHR)の1次利用と2次利用 出所:European Commission「Communication from the Commission - A European Health Data Space: harnessing the power of health data for people, patients and innovation」(2022年5月3日)

 電子健康データの1次利用を通して、各国およびEU域内レベルの医療が改善されるが、そのデータは、通常、電子健康記録に保存され、患者の診療歴のセグメントが含まれている。EHDSは、市民が自分の保健データにアクセスして、国外にいる時でも医療専門職の言語に関係なく、選択した医療専門職によるデータ利用を可能にするものであり、医療ミスを減らしながら診断や治療を改善させて、不必要な診断を回避することができるとしている。

 そして、EHDSは、以下の3つの保健データ1次利用向け製品市場を統合するものであるとしている。

  1. 電子健康記録
  2. その他の保健および医療ソフトウェア製品(例:医用画像ソフトウェア、電子処方箋ソフトウェア、医療診断ソフトウェア、遠隔医療)
  3. ウェルネスアプリケーション(消費者に電子健康記録との相互運用性について告知する自主表示スキーム付き)

 ソリューション領域別にみると、EHDSは、「欧州がん撲滅計画」(関連情報)や「ホライズン・ヨーロッパがんミッション」(関連情報)で培われてきた研究やエビデンスをベースに、がん患者にベネフィットをもたらすイノベーションの開発・実用化を支援し、リアルタイム性のあるがん登録制度を可能にするとしている。

 また、遠隔医療の領域では、仮想医療相談やトレーニング、継続教育を提供するとともに、「欧州レファレンスネットワーク(ERNs)」(関連情報)で構築した診断や治療に関する専門的知見の収集・蓄積を支援したり、がん検査や治療をより効果的でアクセス可能なものにしたりするとしている。医薬品の領域では、保健データ利用により、新たな治療法や医薬品の開発を促進し、「欧州医薬品戦略」(関連情報)の目標や「欧州保健緊急事態準備・対応局(HERA)」(関連情報)の責務の達成に寄与するとしている。

 さらに医療機器の領域では、医療機器規則(MDR)(関連情報)および体外診断用医療機器規則(IVDR)(関連情報)に準拠した医療機器ソフトウェアについて、製造業者が、電子健康記録システムの自己認証スキームで導入された相互運用性の要求事項順守に関する長期的な適格性評価を認識するとしている。

 このような点を踏まえた上で、EHDSは、図4に示す通り、保健データ2次利用によるユーザーのベネフィットを、ステークホルダーごとに整理している。

図4 図4 欧州保健データスペース(EHDS)のユーザーのベネフィット[クリックで拡大] 出所:European Commission「Communication from the Commission - A European Health Data Space: harnessing the power of health data for people, patients and innovation」(2022年5月3日)
  • 個人:自分の保健データに対して、より大きいコントロールを持てるようにする
  • 医療専門職:適切な保健データへのアクセスが可能になる
  • 医療機関:不必要な検査を抑制して、患者および医療支出に対してポジティブな影響をもたらす
  • 研究者:保健データのアクセス主体を通して、データへのアクセスの許可を得ることによって、さまざまな研究プロジェクトのための同意取得に要する時間や費用を削減できる
  • 政策決定者・規制当局:公衆衛生および医療システム全体の機能のベネフィットを目的とした保健データへのアクセスが容易になる
  • 産業界:欧州全域の相互運用性とセキュリティに関する共通の標準規格と仕様から恩恵を受けて、中小企業向けを含む新たな市場を開拓する

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