理化学研究所は、自律的に試行錯誤して細胞培養条件を検討するロボット、AIシステムを開発し、再生医療で用いられる細胞培養のレシピ改善に成功した。
理化学研究所は2022年6月28日、自律的に試行錯誤して細胞培養条件を検討するロボット、AI(人工知能)システムを開発し、実際に再生医療で用いられる細胞培養のレシピを改善することに成功したと発表した。ロボティック・バイオロジー・インスティテュート、エピストラとの共同研究による成果だ。
開発したシステムは、高精度な生命科学実験動作が可能な汎用ヒト型ロボットLabDroid「まほろ」と、新たに開発したAIソフトウェア(最適化アルゴリズム)を組み合わせている。
滲出型加齢黄斑変性を含む網膜色素上皮不全症の再生医療において重要な工程である、iPS細胞から網膜色素上皮細胞(RPE細胞)への分化誘導をモデル実験として、システムの実証実験を実施。まず、iPS細胞からRPE細胞への分化誘導工程を5つに分け、各工程に必要なプロトコルの動作をまほろに実装した。
実際に培養したところ、RPE細胞に分化したことを示す着色細胞が出現し、プロトコルの実装が成功したことが示された。
一方で、出現した着色細胞の割合は4〜5割と、人間の手作業と同じプロトコル条件では分化誘導効率が不十分だと明らかになった。そこで、自律実験により、ロボットが培養する際の分化誘導効率の向上を試みた。
自律実験のための最適化手法は、ベイズ最適化を拡張したバッチベイズ最適化を用いた。実験、評価、計画の1ラウンドあたり48条件の実験を実施し、3ラウンド繰り返すこととした。また、バッチベイズ最適化を適用するために必要となる、変化させるパラメーターを7つ選択し、組み合わせを探索した。分化誘導効率は着色細胞の割合で評価した。
実証のため、3ラウンド合計で144条件のiPS細胞からRPE細胞への分化誘導実験を実施したところ、ラウンド3で最も高い評価値91%が得られ、ラウンド3の上位5条件は有意に評価値が向上していることが示された。
研究における条件検討は膨大な試行錯誤が必要とされる。人間の介在を必要としない自律実験はさまざまな分野で開発されつつあるものの、再生医療分野や細胞生物学分野での実施例はこれまで存在しなかった。今回の研究成果は、科学実験の自動化を達成するための要素技術となり、生命科学研究の加速への寄与が期待される。
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