東京大学は、画像データから上皮細胞の機械特性を表す力学パラメーターを高精度、高速に推定する手法を開発し、ショウジョウバエの上皮組織において力学パラメーターが細胞の並び替えを促進しうることを発見した。
東京大学は2022年6月24日、画像データから上皮細胞の機械特性を表す力学パラメーターを高精度、高速、簡便に推定する手法を開発したと発表した。この手法を用いて、ショウジョウバエの上皮組織において、細胞接着面の負のばね定数という力学パラメーターが細胞の並び替えを促進し得ることを発見した。
開発した手法は、モデル構築、パラメーター推定、モデル評価により構成。上皮組織の細胞接着面を蛍光標識した画像を入力とし、上皮組織の最適な力学モデルと力学パラメーターを出力する。
まず、モデル構築として、力のベイズ推定法により推定した細胞接着面の張力、長さ、向きの関係を持つ特徴を基に、力学モデルの関数を構築する。
次に、細胞頂点の力の釣り合い方程式に、構築した力学モデルの関数を代入し、方程式を解いて力学パラメーターの推定値を得た。最後に、複数の力学モデルから、モデル評価基準である赤池情報量規準(AIC)を用いて最適なモデルを選択する。
この手法で構築した細胞接着面の力学モデル「異方性ばねモデル」は、細胞接着面の張力が細胞接着面の角度に依存する線張力の異方性、細胞接着面の張力が細胞接着面の長さに負の依存性を示す負のばね弾性、細胞接着面の負のばね弾性が細胞接着面の角度に依存する負のばね弾性の異方性の3つの特徴を持つことが明らかとなった。
ショウジョウバエの上皮組織にこの手法を適用したところ、異方性ばねモデルは従来法よりも上皮組織の機械特性をより良く表すことが示された。また、推定した力学パラメーターと上皮組織の形態形成に関する知見から、細胞接着面の線張力の角度依存性は組織外からの力に抵抗する役割、細胞接着面の負のばね定数の角度依存性は細胞の並び替えのための張力上昇の役割を担うことが明らかとなった。
開発した手法は、画像データから迅速かつ簡便に力学パラメーターを推測できるため、推定した力学パラメーターを指標とする新しい遺伝子スクリーニング法への応用が期待される。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.