デジタルツインを実現するCAEの真価

トポロジー最適化のチェッカーフラグ対策フリーFEMソフトとExcelマクロで形状最適化(9)(6/6 ページ)

» 2022年05月17日 07時00分 公開
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トポロジー最適化の計算手順の続き

 前述したD1とD2の考察から、次のρiは次式で決定します。ρiの変化量が大きいと繰り返し計算が発散するので、ρiの変化量にリミッターをかけています。連載第6回と同じです。

式24 式24
式25 式25

 もう1つリミッターをかけます。ρiは1以上にはなれず、かつマイナス値にもなれません。次式となります。

式26 式26
式27 式27

 この辺の手順は「Excel」のマクロプログラムには組み込んでおらず、シートのセルに式として設定しています。任意に数値やアルゴリズムを変えられると思います。式17の第2項D2の分母は前述したことと反対に作用しますが、Dが1に近づけばよいので少し目をつむりましょう。

 λは計算で求まりますが、λgは簡単に求まりません。なぜなら、ρiの変化にリミッターがかかっているので、そう簡単に式9は成立しません。式9の最初の値はプラスの値なので、世代を繰り返すことで式9の値をゼロに近づけます。ここでのλgは、式9を成立させながら目標関数を最小化するための調整定数のようなものです。

 式23を再掲します。最適化の最中で、式9がゼロから程遠かったら、慌てて式9がゼロに近づくようにしなければならないため、後述する理由からλgを大きくする必要があります。λgを大きくさせる度合いがampで、これはフィードバック系のゲインに相当しますね。

式23の再掲 式23の再掲

 式23の第2項は、式9の第2項(重力関数)であって、チェッカーフラグの度合いを数値化したものでした。チェッカーフラグになっていれば、式23の第2項は小さくなり、|λg|は大きくなります。また、初期状態は全てのρiが0.375[-]などになっていて、のっぺりとしたグレーなので、この場合も|λg|は大きくなります。

 式17の第1項D1はプラス値、第2項D2はマイナス値となり、正負が拮抗しています。|λg|が大きければ、|D2|が大きくなって、次世代のρiを決めるとき、D2の意向が反映されます。つまり、チェッカーフラグや、のっぺりとしたグレー状態を避けるように次世代のρiが変化します。

 式23の第2項が目標値Gtargetに近づけば、λgがゼロに近づき、第2項D2もゼロに近づきます。この結果、次の世代のρiを決めるときに、D1の意向が反映されます。つまり、各要素の蓄えられる仕事量が小さくなるように、次世代のρiが変化します。以上の操作で世代を繰り返すことによって、式7が最小になるρiが求まり、同時に式9が成立することになります。以上が図3の*B、*Cの説明です。少し長かったですね。

 最後に、図3の*Dを説明します。「各ρiが0ないし1になったか、かつ、h<0になったか」の判定と計算終了の判断方法を述べます。重力関数は大きければ大きいほどよいので、“目標値Gtargetよりも大きくなってもよし”とします。よって、h=0ではなくh<0としました。この判断は人間で行いましょう。



 以上が、チェッカーフラグ対策付きトポロジー最適化のアルゴリズムです。この部分は文献を参考にせず、筆者が自分で考えましたので改善の余地があると思います。

 次回は、チェッカーフラグ対策付きトポロジー最適化を実施した例を紹介します。チェッカーフラグ対策のあり/なしで最適化形状が変わりますので、それらを比較しましょう。 (次回へ続く

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Profile

高橋 良一(たかはし りょういち)
RTデザインラボ 代表


1961年生まれ。技術士(機械部門)、計算力学技術者 上級アナリスト、米MIT Francis Bitter Magnet Laboratory 元研究員。

構造・熱流体系のCAE専門家と機械設計者の両面を持つエンジニア。約40年間、大手電機メーカーにて医用画像診断装置(MRI装置)の電磁振動・騒音の解析、測定、低減設計、二次電池製造ラインの静音化、液晶パネル製造装置の設計、CTスキャナー用X線発生管の設計、超音波溶接機の振動解析と疲労寿命予測、超電導磁石の電磁振動に対する疲労強度評価、メカトロニクス機器の数値シミュレーションの実用化などに従事。現在RTデザインラボにて、受託CAE解析、設計者解析の導入コンサルティングを手掛けている。⇒ RTデザインラボ


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