製造業×品質、転換期を迎えるモノづくりの在り方 特集

アステラス製薬が唯一無二の技術「DAIMON」で目指す未来の医薬品のモノづくり製造マネジメント インタビュー(3/3 ページ)

» 2022年05月10日 08時00分 公開
[朴尚洙MONOist]
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数千のパラメータ×数千のパラメータの相関関係から原因を特定

 DAIMONは2018年から稼働しており、既にさまざまな実績を重ねている。則岡氏は、低分子医薬品と、高分子を扱うバイオ医薬品への適用事例を紹介した。

 国内で生産している低分子医薬品で、DAIMONの一変量モニタリング機能を用いて有効成分の定量値のトレンドモニタリングに適用していたところ、ある生産ロットで異常が検出されたという。この異常値に対して、先述したDAIMONで収集している数千のパラメータ×数千のパラメータに基づく相関関係の上位10項目から、原薬定量値と製品定量値に負の相関関係があることが分かった。この医薬品の生産では、製品に含まれる有効成分の量が100%になるように原薬の投入量を補正する定量値補正を行っているが、見いだされた負の相関関係は定量値補正が機能していないことを意味している。則岡氏は「ここまでくれば、生産プロセスに携わる技術者であれば、原薬定量値のバラつきが原因であることはすぐ分かる」と述べる。

国内生産低分子医薬品における一変量モニタリングの事例 国内生産低分子医薬品における一変量モニタリングの事例[クリックで拡大] 出所:アステラス製薬

 国内で生産しているバイオ医薬品では、原料の液体からさまざまな作業を経て別の液体を作る工程Xにおいて、最終的に作成する液体のパラメータZが適切でない場合に調整作業が必要になるという生産ロット間でのバラつきが課題になっていた。そこで、原料のある液体と最終的に作成する液体、両方のパラメータについて網羅的なデータ解析を行ったところ、原料の液体のパラメータYと作成する液体のパラメータZに高い相関があることが分かり、パラメータYからバラつきや作業時間を予測できるようになったという。「何よりこれまでは分からなかった未知の関係を見いだせたことに大きな価値があった」(則岡氏)。

国内生産バイオ医薬品への適用事例 国内生産バイオ医薬品への適用事例[クリックで拡大] 出所:アステラス製薬

 海外で生産している低分子医薬品では、開発段階で得られた既知の関係との適合を確認する回帰・因果関係モニタリングを行っていたところ、ある生産ロットから既知の関係にあてはまらなくなる事象が発生したという。品質上問題になるような事象ではなかったものの、DAIMONに収集されている約350生産ロット分のデータを用いて分析を行ったところ未知の関係が判明した。この未知の関係を考慮した多変量モニタリングを活用すれば、製品と生産プロセスに対する理解をさらに深めながら、よりよいモニタリングを行えるようになる。

海外生産バイオ医薬品への回帰・因果関係モニタリングと多変量モニタリングの適用事例 海外生産バイオ医薬品への回帰・因果関係モニタリングと多変量モニタリングの適用事例[クリックで拡大] 出所:アステラス製薬

 このようにDAIMONは、データ収集に基づくモニタリングから変動を検出し、原因の調査と問題発生の未然防止につなげるだけでなく、製品と生産プロセスの理解向上にもつなげられる点も含めて大きな効果が得られるシステムとなっている。則岡氏は「生産プロセスに携わる技術者にとっての知識獲得サイクルを効率的かつ継続的に回せる点でメリットが大きい。医薬品のモノづくりを高度化し、製薬企業としての使命である、より良い品質の医薬品の安定供給を実現できる唯一無二の技術だと確信している」と意気込む。

「DAIMON」によって得られるメリット 「DAIMON」によって得られるメリット[クリックで拡大] 出所:アステラス製薬

 2018年から社内における低分子医薬品の生産で適用が始まったDAIMONは、2019年には国内の社外低分子医薬品生産、2020年には海外の社外低分子医薬品生産へと展開を広げている。そして、これら低分子医薬品でのノウハウを基に、より複雑性の高い高分子を扱うバイオ医薬品についても2021年から適用を開始した。なお、低分子医薬品の原材料が7〜8種類であるのに対して、バイオ医薬品は120〜130種類に上るものの、低分子医薬品で構築したDAIMONのシステム構成を大きく変更する必要はなかったという。

展開を拡大する「DAIMON」 展開を拡大する「DAIMON」[クリックで拡大] 出所:アステラス製薬

 扱うモダリティの異なる低分子医薬品とバイオ医薬品の両方にDAIMONを適用できたことから、今後はさらに複雑になる細胞などを扱う製剤にも適用し、アステラス製薬の目指す“未来の医薬品のモノづくり”に近づけていきたい考えだ。

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