富士通は、「発見するAI」をスーパーコンピュータ「富岳」に実装し、1日以内に2万変数のデータを超高速計算して、1000兆通りの可能性から未知の因果を発見できる技術を開発した。
富士通は2022年3月7日、同社が開発した「発見するAI」をスーパーコンピュータ「富岳」に実装し、1日以内に2万変数のデータを超高速計算して、1000兆通りの可能性から未知の因果を発見する技術を開発したと発表した。同技術を用いて抗がん剤の薬物耐性を分析したところ、肺がん治療薬に耐性を生み出す因果メカニズムの抽出に成功した。東京医科歯科大学との共同研究による成果だ。
発見するAIは、特徴的な因果関係を持つ条件を、網羅的に抽出する技術だ。判断根拠の説明や知識発見が可能なAI(人工知能)技術「Wide Learning」を用いて開発された。
研究では、富岳上に、条件探索と因果探索を実行するアルゴリズムを並列化して実装し、計算性能を最大限引き出した。さらに、発見するAIを活用することで、薬剤耐性を生み出す条件となり得る有望な遺伝子の組み合わせを抽出し、1日以内で網羅的な探索を可能にした。
同技術を用いて、Broad Instituteが提供する「DepMap」のがん細胞株300種の遺伝子発現量データと、肺がんの治療薬などで使われるゲフィチニブの感受性、耐性データを解析し、ゲフィチニブが効果を発揮しないがん細胞株の条件とメカニズムを網羅的に探索した。
その結果、3つの転写因子ZNF516、E2F6、EMX1の発現量が低いことが分かった。その条件を満たす肺がん細胞株では、SP7とPRRX1という2つの転写因子がトリガーとなるメカニズムが薬物耐性に寄与している可能性が示唆された。
ヒトの全遺伝子を対象とした網羅的探索は、通常の計算機では4000年以上かかると試算されている。今回、実用的な時間でヒトの全遺伝子を解析可能になったことで、効率的な薬剤開発が期待される。今後両者は、遺伝子の発現量や変異データに時間軸、位置データを組み合わせ、多層的、総合的な分析に取り組む。医療、創薬分野での研究開発を進めるとともに、システム運用や生産現場など他分野への展開も視野に入れている。
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