アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWSジャパン)と中外製薬は、同社の全社データ利活用基盤「CSI」がAWSのクラウド基盤を採用したと発表。中外製薬は2020年末までに、革新的新薬の創出を目指す社外研究者との100件の研究プロジェクトの運用に向けてCSI上に研究開発環境を整備する計画である。
アマゾン ウェブ サービス ジャパン(以下、AWSジャパン)と中外製薬は2020年7月15日、オンラインで会見を開き、中外製薬が開発を進める全社データ利活用基盤「Chugai Scientific Infrastructure(CSI)」にクラウド基盤「AWS」を採用したと発表した。同社は2020年末までに、革新的新薬の創出を目指す社外研究者との100件の研究プロジェクトの運用に向けてCSI上に研究開発環境を整備する計画である。
1925年創業の中外製薬は、1960年代の医療医薬品へのシフトや、1980年代からのバイオ医薬品への注力など、これまでに幾つかの事業変革を行っている。直近で最も大きな変革は、2002年に行ったスイスのロシュ(Roche)グループとの戦略的アライアンスだろう。これにより、ロシュグループとしてバイオ医薬品、がん領域の医療用医薬品、診断薬事業の規模で世界1位となった。また、中外製薬としてはロシュグループの新薬の国内独占販売が可能になり、その安定した収益基盤から革新性の高い創薬が可能になっているという。
中外製薬の2019年12月期時点の連結業績は売上高6862億円、営業利益2249億円、従業員数が7394人。研究所は国内3拠点とシンガポール1拠点で4拠点、工場は国内3拠点を展開している。中外製薬 デジタル・IT統轄部門長の志済聡子氏は「バイオをはじめとする独自の創薬技術力が強みであり、自社創薬品の世界売上高は年間合計で5000億円を突破した」と強調する。
足元の業績が好調な中外製薬だが、患者の体質や病気の特徴に合わせて治療を行う「個別化医療」への対応が急務になっている。2019〜2021年の中期経営計画「IBI 21」でも5つの戦略の1つとして「個別化医療の高度化」を挙げており、その実現を可能とするデジタル化戦略「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」を2020年3月に発表している。
CHUGAI DIGITAL VISION 2030は「デジタルを活用した革新的な新薬創出」「全てのバリューチェーンの効率化」「デジタル基盤の強化」という3つの基本戦略から成る。志済氏は「全体としては2030年を見据えながらも、早めに結果を出せるものは出していくという構えだ。データ利活用基盤であるCSIを用いた社外研究者との研究プロジェクトの推進は、その代表例といえるだろう」と語る。
CSIは、クラウドとしてAWSを採用している他、レッドハット(Red Hat)のインフラ構築自動化ツール「Ansible」、アトラシアン(Atlassian)の課題管理プロセス管理ツール「Jira」、そしてGitHubなどを用いて構築した。「AWSは、他のクラウドと比べてログ取得可能なレベルが深く、細かい。また、コストが毎年一定程度下がるとともに、エンジニアのコミュニティーの活性度が高く、情報が広く公開されていることが採用のポイントになった」(志済氏)という。
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