日本の中小製造業は本当に多すぎるのか、その果たすべき役割とは?「ファクト」から考える中小製造業の生きる道(10)(5/5 ページ)

» 2021年12月06日 11時00分 公開
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日本経済の抱える企業の変質という重大問題

 この連載では、ここまでさまざまなファクトを通じて、日本経済の現状と、変化のポイントを見てきました。

 日本の経済は停滞しており、消費者でもある労働者の所得が減り、現役世代が困窮しています。一方で、企業は金融投資や海外投資により、経済が停滞していても利益を出せる主体へと変貌しています。

 このような状況は、確かに現在のところ企業にとって都合がよく、利益も資産も右肩上りで増大はしています。ただ、このように企業が利益ばかりを追い、実質的な付加価値増大を軽視する姿勢は継続性のある活動といえるのでしょうか。

 日本は1990年代に極めて高い経済水準を誇り、その後他国が成長する中で先進国の中で唯一停滞を続ける国です。現在は先進国の中では中間程度の経済水準まで後退しています。当然ですが、この先も経済停滞が続けば、今度は先進国下位、さらには先進国とも呼べないような経済水準へと衰退していくことになります。

 特に、このまま国内物価が停滞し「相対的デフレ期」が継続すれば、日本経済の生命線とも呼べる「輸入」がどんどん割高となり、海外からの輸入品を買いたくても買えなくなっていく事態となっていきます。特に海外調達に頼らざるを得ないエネルギーや食糧は致命的だと思います。

 このような事態を回避するためには、日本の経済は、まさに今が踏ん張りどころであり、転換期ともいえるのではないでしょうか。

グローバルで力を発揮する大企業、国内の転換を図る中小企業

 その中で、大企業と中小零細企業の立ち位置は異なっていくと考えます。大企業は、その資本力で主に「規模の経済」を追う主体となります。もちろん業界や企業によって事情は異なると思いますが、大企業は資本や労働力を集中させ、効率化を図ることで、モノやサービスを安価に大量に生産します。このような規模の経済は、グローバル化とも親和性が高く、日本型グローバリズムで海外へと活動を広げていきますので、日本国内の経済事情に左右される割合は大きくありません。また、これらの状況が進めば、日本国内の労働者が徐々に不要になっていくという皮肉な事態にもなっています。

 一方で、グローバル化から国内に取り残される多くの事業主体は、中小零細企業となります。国内労働者の7割を雇用する中小零細企業は、ある意味で国内経済を転換するための要だといえる存在となってきます。

 中小零細企業が、大企業と同じようにグローバル化や規模の経済を追うことで、国内経済は果たして豊かになるでしょうか。筆者はそうは思いません。人口が減少し、AI化や自働化が進む中で、規模の経済を追うだけでは、国内から「仕事=付加価値」が減り、一層安価なモノやサービスがあふれるだけとなり、経済停滞から抜け出せないということは容易に想像できます。そう考えると、われわれ中小零細企業に必要な変化とは、1人当たりの「付加価値=労働者の仕事の価値」を上げることと、消費者でもある労働者の「収入」を上げることです。

 大企業に比べて、どちらも半分程度の水準でしかない中小零細企業ですが、企業側にはまだ余力のある状況ですので、その工夫の余地は大いにあるのではないでしょうか。

 「付加価値を上げる」とは、つまり労働者の「労働生産性」を向上させることに他なりません。労働生産性は、1時間当たりの生産量である「生産効率」を向上させることも大切ですが、それよりもモノやサービスの質や「値付け」を向上させることが重要です。値付けとは販売価格、つまり物価のことです。そして、労働者への対価である賃金もその成果に応じて増やしていくことが何よりも大切だと思います。

 物価よりも、賃金の方が増えていく状況(実質賃金の向上)になって初めて、労働者でもある消費者が豊かになり、経済成長の望ましいスパイラルに入っていけます。事業投資により「労働生産性」を上げることはもちろんですが、「人の仕事」により価値をつけて「多様性の経済」による仕事の高付加価値化を図っていくことが重要です。

 もちろん個々の企業で事情は異なりますし、中小企業は赤字(欠損法人)の企業が8割に達する中で、なかなかそこまでできない企業も多いとは思います。こうした中でも、少しずつ「多様性の経済」にシフトしていける企業が増えていくことが重要だと考えています。

 次回(最終回)は、あらためて日本の製造業の現在地を確認すると共に「多様性の経済」についてまとめていきたいと思います。

⇒前回(第9回)はこちら
⇒次回(第11回)はこちら
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⇒製造マネジメントフォーラム過去連載一覧

筆者紹介

小川真由(おがわ まさよし)
株式会社小川製作所 取締役

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 慶應義塾大学 理工学部卒業(義塾賞受賞)、同大学院 理工学研究科 修士課程(専門はシステム工学、航空宇宙工学)修了後、富士重工業株式会社(現 株式会社SUBARU)航空宇宙カンパニーにて新規航空機の開発業務に従事。精密機械加工メーカーにて修業後、現職。

 医療器具や食品加工機械分野での溶接・バフ研磨などの職人技術による部品製作、5軸加工などを駆使した航空機や半導体製造装置など先端分野の精密部品の供給、3D CADを活用した開発支援事業等を展開。日本の経済統計についてブログやTwitterでの情報発信も行っている。


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