苦境が目立つ日本経済の中で、中小製造業はどのような役割を果たすのか――。「ファクト」を基に、中小製造業の生きる道を探す本連載。最終回となる今回は、連載の主題でもある「中小製造業の生きる道」について見ていきます。
統計データという事実(ファクト)から、中小製造業の生きる道を探っていく本連載ですが、今回は最終回(第11回)となります。この連載では、われわれ中小製造業が将来にわたって生き残っていくために何が必要かを見定めていくために、以下の流れで記事を進めてきました。
ここまでの連載で確認できたのは、日本は1990年代の経済が強く物価水準の高い国から、長い停滞を経て凡庸な経済水準で中程度の物価水準の国へと立ち位置を変化させてきたという点です。その中で、日本企業は、付加価値よりも利益を、労働者よりも株主を、事業投資よりも金融・海外投資を優先する変質を遂げてきました。さらに、企業の中でもグローバル化を強く進める大企業に対して、国内経済の主役ともいえる中小企業の生産性や給与の水準が低いという実態も見えてきました。
それではこの先、中小製造業はどのような方向性を目指していくべきなのでしょうか。今回は、統計的事実から中小製造業の進むべき方向性について考えていきたいと思います。
われわれ中小製造業の今後の方向性を考えていくに当たって、まずは現在の日本経済の状況を産業別に可視化するところから始めてみましょう。
図1はGDP(国内総生産)活動別の変化量を相関図としてまとめたものです。横軸は名目GDPの変化量、縦軸は実質GDPの変化量です。1997年から2019年の変化量を、産業ごとにプロットしています。バブルの大きさは、各産業の2019年における名目GDPの大きさを表しています。
各産業の名目GDPと実質GDPが成長(+)か縮小(−)かという軸(縦軸、横軸)と、物価が上がったか下がったかという線(緑色)で区分される6つの領域があり、それぞれの産業がどのような変化をしたのかが一目で分かります。
名目GDPが成長するということ(右側の領域)は、その産業の活動をお金の尺度で測った時に経済規模が拡大していることを意味します。一方で、実質GDPが成長するということ(上側の領域)は、その産業の産出物の数量的な規模が拡大していることを意味します。
これまでも他国の事例をご紹介してきましたので、通常の経済成長とは(1)の領域であることは理解できると思います。つまり、名目GDPが成長していて、実質GDPが物価上昇分だけ目減りしながらも成長している状態ということですね。
日本の場合は(1)の領域に存在する産業は「運輸・郵便事業」くらいで、さらにほとんど成長していません。一方で、成長している産業は「専門・科学技術・業務支援サービス業」「保健衛生・社会事業」「不動産業」などですが、物価は下がっていて(2)の領域でとどまっています。その他の産業を見てみると、名目GDPの縮小している(4)、(5)、(6)の領域に位置しています。
特に最大産業である「製造業」が、(4)の特異な位置に存在するのが何よりも特徴的ではないでしょうか。製造業が位置する(4)の領域は、名目GDPがマイナスで、実質GDPがプラス、物価がマイナスの領域です。つまり、販売価格を下げて(物価マイナス)、数はたくさん作る(実質GDPプラス)けど、元の経済規模から縮小(名目GDPマイナス)しているということを意味しています。大量に安く作るけれども、経済活動が縮小しているという状況ですね。
この根底には前回触れた「規模の経済」の価値観が影響していることは間違いないように思います。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.