苦境が目立つ日本経済の中で、中小製造業はどのような役割を果たすのか――。「ファクト」を基に、中小製造業の生きる道を探す本連載。第10回は、いよいよ日本経済における中小製造業の役割についての考察となります。
統計データという事実(ファクト)から、中小製造業の生きる道を探っていく本連載ですが、今回は第10回となります。この連載では、われわれ中小製造業が将来にわたって生き残っていくために何が必要かを見定めていくために、以下の流れで記事を進めています。
ここまでの連載の中で、日本は1990年代は経済的に強く物価水準の高い国だったということを見てきました。しかし、長い停滞を経て、現在は凡庸な経済水準で先進国の中では、ちょうど真ん中程度の物価水準の国へと立ち位置を変化させてきました。
この経済停滞の主因は「少子高齢化による人口減少」と位置付ける専門家も多いのですが、ここまで見てきたように問題がそれだけではないことは数々の「ファクト」が示しています。特に、前回の「国内投資を減らす日本企業の変質と負のスパイラル」で取り上げたように「付加価値よりも利益」を、「労働者よりも株主」を、「事業投資よりも金融投資」を優先する企業の変質にも、日本経済停滞の大きな要因がありそうです。
一方で「日本には中小企業が多すぎる」「中小企業は生産性が低いために全体の足を引っ張っている」といった言説も耳にすることが多くなってきました。そこで、今回はファクトを通じて「日本における中小企業の立ち位置や、役割とは何か」に迫っていきたいと思います。
企業の規模については、国によってそれぞれ定義の仕方が異なります。日本でも業種によって従業員数、資本金などで細かく中小企業の要件が決められています。例えば、日本の製造業では、中小企業の定義は「資本金の額又は出資の総額が3億円以下の会社又は常時使用する従業員の数が300人以下の会社及び個人」だと定められています。
一方で、国際比較を行うには、その条件をそろえて比較する必要があります。OECD(経済協力開発機構)の統計データでは、従業員数250人未満を中小企業(Small Business Enterprise)だと位置付けています。そこで、まずは国際比較をするために、中小企業の数についてこのOECDでの統計データを基に見ていきましょう。
図1は中小企業(従業員数1〜249人)の企業数を、数の多い国順に並べたグラフです。ここに含まれる企業は、非金融機関の法人企業となります。銀行などの金融機関や、個人事業などは含まれません。
米国や日本の企業数が多く、その国の経済規模に応じた企業数があるように見えます。日本は先進国の中では、確かに中小企業の数が多い方のようです。一方で、本連載で何度も触れてきましたが、各国で抱える人口は異なりますので、その国の本当の実力値を知るには人口当たりの数値で比較した方が公正です。そこで、図1のグラフを人口当たりに集計しなおして、表現してみましょう。
図2が、人口100万人当たりの中小企業数を表したグラフです。
上位にはチェコやスロバキアなどの発展中の国や、リトアニアなどの人口の極端に少ない国などが並びます。イタリアがその中に混じって上位に属していることが目立ちますが、その他のG7各国は下位に属しています。
その中で、日本は人口100万人当たり2万2000社と、OECD33か国中31番目の水準です。実は日本は人口当たりで見れば「中小企業の数が少ない国」といえます。少なくとも、日本が「中小企業ばかりの非効率な国」ではないということはファクトから見ると明らかだといえるでしょう。
また、全企業に占める中小企業の割合で見ても、OECDのどの国の割合も99.2%(スイス)〜99.9%(ギリシャ)の範囲内となっています。日本は99.6%で、OECDの中でも下位になります。「日本の企業の99%以上が中小企業だ。この比率が多いことが問題だ」という論法が展開されることがありますが、こうして数値を見てみると日本の比率は何も特別なことではなく、どの国でも企業の内の圧倒的多数が中小企業ということになります。
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