「多様性の経済」という価値の軸を、中小製造業が進むべき方向性とは「ファクト」から考える中小製造業の生きる道(11)(3/3 ページ)

» 2022年01月17日 11時00分 公開
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中小企業こそ日本経済転換の要

 本連載の冒頭でも申し上げましたが、筆者は経済学者でも経済評論家でもありません。単なる中小製造業(町工場)の経営者です。「中小企業が『多様性の経済』に向かうことが日本経済復活に貢献する」という結論に対して、何ら経済学的な裏付けはありません。また、マクロ経済の停滞には、個々の企業の努力は無力で、マクロ経済政策によってのみ改善できる、といった意見もあると思います。

 ただ、われわれ企業経営者は、政治が変わってくれるまで待つことはできません。その間に、経営環境は悪化し、ますます困窮していくからです。企業経営者が目先のビジネスを回すのに精いっぱいであることは、筆者自身も当事者としてよく分かっているつもりです。

 相対的デフレ期による事業環境の悪化が続く中で、多くの中小企業経営者が自信を無くし、値段を下げることで仕事量を確保し、自身の給料を削ってまで会社を存続させている姿を、筆者も多く見てきました。「ジリ貧」という言葉がしっくりくるような経営をしている企業が多いのが実態だと思います。

 企業の内部留保が問題視されがちですが、リーマンショックやコロナ禍を経験する中で、企業として生き残っていくために一定以上の資金を留保しておくことはもはや「処世術」となっています。企業も生き残るために、なりふり構っていられない状況ともいえるでしょう。

 それでは、このままジリ貧で日本が衰退していくのを、流されるまま待っていればよいのでしょうか?

 われわれ中小企業経営者は、日本で500万人以上いるとされています。その経営者の意思決定が労働者の7割を左右するという非常に大きな力を持っているわけです。中小企業は事業承継が課題とされていますが、既に事業承継を済ませて大きく伸びている中小企業が多いことも事実です。これらのうまくいっている企業を観察すると、まさに「多様性の経済」を重視した経営をしているところが多いことに気付きます。

 それらの企業は、従来の値付け感を適正化し、取引する顧客や商材を見直し、顧客との関係性をより対等に変化させています。むしろ、供給側が発注側を選んでいるような領域も増えてきました。「多様性の経済」を軸としたビジネスに切り替えている企業も増えていると感じています。

 日本が停滞している間、世界は大きく変化しています。日本国内でも、若い経営者を中心に高付加価値な事業への転換が進みつつあります。いつまでも数十年前のやり方を引きずり、国内で安値競争をしている場合ではありません。われわれ企業経営者が、足並みをそろえて行動変容したならば、日本経済を転換し得る大きな力となるのではないでしょうか。

 今まで共有させていいただいた多くの経済統計のデータと、現在の日本の特殊な状況を鑑みれば、この「多様性の経済」を実践する企業経営への変化は、1つの大きな転換の軸になると考えます。

 本稿を読まれた皆さんはどのように考えますか。筆者も一当事者として、この「多様性の経済」の考えで、自分たちにしかできないニッチな仕事を実践しているつもりです。ぜひ多くの経営者の皆さんにご賛同いただき、仲間が増えていけばと願っているところです。

あとがき

 本稿の執筆にあたりまして、アイティメディア MONOist編集長の三島様には、経済素人の私に連載執筆の機会をいただき、とりとめもない原稿記事を文意をくみつつ読みやすい記事に仕立てていただきました。あらためて深く御礼申し上げます。

 本稿で共有させていただいた統計データは、日本の経済状況を把握するにあたっての重要度の高いものから取り上げてきました。実はご紹介したい統計データは、まだまだ膨大にあるのですが、いずれまた機会をいただいた時のために温めておきます(既に200以上のテーマについて、ブログ記事として公表しています。ご興味のある方はこちらもご一読いただければ幸いです)

 本稿はひとまずここで筆をおかせていただきます。本稿を通じて、日本の経済統計に興味を持たれた方はぜひ統計の元データをご確認いただくことをお勧めします。特に日本の政府統計は、非常にきめ細かくデータが蓄積されていることに驚くことでしょう(政府統計:e-Stat)。

 公開されているこれらの統計データが、ほとんど国民に共有されず活用されていないことはとても残念です。本稿が、統計データというファクトから現状を認識し、皆さんの行動変容へとつながっていくきっかけとなれば幸いです。

⇒前回(第10回)はこちら
⇒本連載の目次はこちら
⇒製造マネジメントフォーラム過去連載一覧

筆者紹介

小川真由(おがわ まさよし)
株式会社小川製作所 取締役

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 慶應義塾大学 理工学部卒業(義塾賞受賞)、同大学院 理工学研究科 修士課程(専門はシステム工学、航空宇宙工学)修了後、富士重工業株式会社(現 株式会社SUBARU)航空宇宙カンパニーにて新規航空機の開発業務に従事。精密機械加工メーカーにて修業後、現職。

 医療器具や食品加工機械分野での溶接・バフ研磨などの職人技術による部品製作、5軸加工などを駆使した航空機や半導体製造装置など先端分野の精密部品の供給、3D CADを活用した開発支援事業等を展開。日本の経済統計についてブログやTwitterでの情報発信も行っている。


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