苦境が目立つ日本経済の中で、中小製造業はどのような役割を果たすのか――。「ファクト」を基に、中小製造業の生きる道を探す本連載。第3回では、国民1人当たりの豊かさを示す指標「1人当たりGDP」に焦点を当て、日本の現在地を見てきます。
統計データという事実(ファクト)から、中小製造業の生きる道を探っていく本連載ですが、われわれ中小製造業がこの先も生き残っていくために何が必要かを見定めていくために、以下の流れで記事を進めています。
前回は、われわれ労働者の生み出す仕事の価値(付加価値)の国としての合計金額である「GDP(国民総生産)」について取り上げました。日本は中国に抜かれたものの、現在も世界第3位のGDPを誇る経済大国です。ただ、それは日本が1億人以上もの人口を保有する「先進国有数の人口大国だから」という理由があることを指摘しました。
それでは人口の影響を取り除いた平均値である「1人当たりGDP」としてはどうなるのでしょうか。今回は、国民1人当たりの豊かさを示す指標でもある「1人当たりGDP」にフォーカスします。
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まず、それぞれの国の人口から確認してみましょう。図1はOECD(経済協力開発機構)38カ国の2019年の人口データです。
3億人以上の米国が、先進国では圧倒的に人口の多い国となります。ただ、日本はその米国に次いでOECDで2番目に人口の多い「人口大国」であることが分かります。現在も1億2600万人もの人口を擁し、8300万人程度のドイツや6700万人程度のフランス、英国よりもはるかに多い規模の人口を抱えています。
ただ、こうした状況が今後変化していくというところが、本連載でも繰り返し述べている危機感につながってくるのです。少子高齢化は先進国共通の課題となっており、特に日本では今後人口が加速度的に減少することが確実視されています。人口の推移や、年齢構成の変化なども大変興味深いテーマですが、これらの課題については、今後詳細に紹介するつもりです。
日本は先進国と呼ばれる国々で構成されるOECDの中で2番目のGDPを誇り、2番目の人口を擁することが確認できました。人口が多ければ、その国で生み出される付加価値の合計値であるGDPが大きくなるのは当然ですね。
ただ、今のように経済が停滞した状態のまま人口が減れば、GDPも減少することは必然です。その際に、労働者でも消費者でもある私たちが、今よりも世界での存在感が薄れ、ますます困窮してしまう可能性すらあるのではないでしょうか。少なくとも、今後数十年間は人口の減り続けると予想されている日本で、われわれは今後どのような経済を目指していけばよいのでしょうか。
そのために重要な観点は、合計値ではなく一人一人の指標に目を向け、1人当たりの労働や生活の価値を上げていくことだと思います。その出発点として、日本の1人当たりのGDPがどの程度なのか、現在地を明らかにするのはとても大きなステップだと考えます。
そこで、まずはOECD各国の1人当たりGDPについて、長期推移から見ていきましょう。図2が、1人当たりGDPの長期推移グラフとなります。
OECD全ての国のグラフを入れているので、少し見難いかもしれませんがご容赦ください。ドル換算値なので、米国(赤色)以外の国は、為替の影響を受けジグザグとした推移となりますが、全体的な傾向は読み取れると思います。
日本(青色)は、1980年代後半と、1990〜1995年で急激に1人当たりGDPが増大しています。1995年にはルクセンブルクやスイスに次いで、1人当たりGDPでも世界で3番目の水準にありました。1995年は米ドル/円の為替が大きく円高に振れたタイミングで、ドル換算値は大きく変化が出ていますので、その点はあらかじめご承知いただきたいと思います。
ただ、日本の1人当たりGDPは、ピークである1995年以降はずっと横ばいの停滞状態が続いています。その間、米国は大幅な伸長を続けており、ドイツやカナダなども成長が続いていますね。直近では、日本は先進国の中でも中位に埋もれています。OECDの平均値を黒線で表現していますが、2013年ごろからこの平均値に追い付かれ、同程度の推移となっています。
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