設備もシステムも古く、変革が進まない――。日系企業では古い設備やシステムを使い続けることが美徳とされているが、米国では最初から“理想の業務”を前提に設計された物流企業が急成長を遂げている。創業わずか数年で全米10位に躍進したArcadia Cold Storage & Logisticsは、サプライチェーンを統合するデジタル基盤など最新技術を用いることで、業界の常識を破る急成長を遂げている。同社CIOに話を聞いた。
設備もシステムも古く、変革が進まない――。日本の製造業では、工場設備やITシステムの老朽化が深刻化しているにもかかわらず、多くの企業で更新の目処が立っていない。特に、2025年の基幹システム刷新問題に象徴されるように、システム面での技術的遅れが経営課題となっている。
しかし、海外では「新しい仕組み」を積極的に取り込み、その強みを生かして古い業界を変えようとする企業が数多く生まれている。その内の1つが、先進のデジタル技術を活用し、高度なSCM(サプライチェーンマネジメント)を実現することで、米国のコールドチェーン業界で新たな風を起こし、成長を続けているArcadia Cold Storage & Logistics(アルカディアコールド)だ。
Arcadia Cold Storage & Logisticsは、「デジタルファースト戦略」を打ち出し、先進のデジタル技術を活用することで、コールドストレージ、ロジスティクス、これらのサプライチェーンマネジメントなどを統合し、高い顧客体験を実現している。同社CIOのChris Lafaire(クリス・ラフェール)氏に話を聞いた。
Arcadia Cold Storage & Logisticsは2021年に創業した新しいコールドチェーンを中心とした3PL(サードパーティーロジスティクス、物流全体を代行するサービス)企業だ。冷凍食品メーカーが製造した食品を冷凍冷蔵倉庫で保管し、それを小売店に最適なタイミングで配送する。顧客企業には、ウォルマートなどの米国の大手小売店やスーパーマーケットチェーンを抱えている。食品がメインだが食品以外の製品も扱っているという。現在は米国内7カ所に冷凍冷蔵施設を展開しており、さらに3か所の施設が現在建設中だ。同社の特徴が、最初から最新の設備や最新のデジタル技術を活用することで業界の古い慣習を破ろうと考えていた点だ。
ラフェール氏は「この業界を長く見てきたが、コールドチェーンはさまざまなパートナーとの関係性で構築されているが、そのために数百のシステムがバラバラに動いており、これらを人手でつなぎながら活用しているのがほとんどだ。そこに問題があると感じていた。そこでわれわれは最初から共通のデータで単一の視点であらゆる情報を取り扱えるようにすることを考えた。われわれは新興企業だが、この強みを生かし、冷凍冷蔵倉庫企業として現在米国で10番目の地位を得るほど成長してきた。今後設立予定の新たな倉庫が立ち上がれば、さらに上位をうかがうことができる」と強みを訴える。
例えば、複数のシステムがバラバラで稼働していると、複数倉庫にある商品の在庫をまとめて確認しようとした場合、一元的に把握するためには手作業で収集する負荷が生じる。在庫を把握するために複数のシステムにアクセスし、レポートを実行し、それらをExcelなどに統合して1つのビューで見られるようにする作業が必要だ。今も多くのロジスティクス企業やユーザー側の物流担当者は、これらの作業を毎日手作業で行っており、情報を取りまとめるためだけの無駄な作業に多くの時間を費やしている。
「特に食品も扱うコールドチェーン業界で扱う冷凍食品では、温度も含めた在庫商品のシビアな品質管理が非常に重要だ。倉庫設備などでトラブルが発生した場合、温度環境を守るために即座に対応する必要があるが、在庫製品の状況を把握するだけで多くのシステムや人にアクセスしなくてはならない状況では多くの損失を生み出す可能性がある」とラフェール氏は問題点を指摘する。
さらに「人手で情報収集する場合、状況の確認にタイムラグがあるのが当たり前となり、リアルタイムの状況に対して誤差があるのが日常となる。そうなると情報の精度にブレが生まれ、あらかじめ誤差を見込んだ余裕ある在庫などが必要になる。本来必要のない在庫コストや運用コストが発生することにもつながり、それが収益を圧迫する負のスパイラルを生み出す」とラフェール氏は重ねた。
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