苦境が目立つ日本経済の中で、中小製造業はどのような役割を果たすのか――。「ファクト」を基に、中小製造業の生きる道を探す本連載。第4回では「労働生産性」に焦点を当てていきます。
統計データという事実(ファクト)から、中小製造業の生きる道を探っていく本連載ですが今回は第4回となります。この連載では、われわれ中小製造業がこの先も生き残っていくために何が必要かを見定めていくために、以下の流れで記事を進めています。
第1回では主に「労働者の平均給与」、第2回では「GDP(国内総生産)」、第3回では「1人当たりGDP」について取り上げてきました。いずれの指標でも右肩上がりで成長を続ける世界の中で、日本だけが停滞している状況が確認できたと思います。
また、前回取り上げた「1人当たりGDP」は「国民の平均的な生産性」ともいえるかもしれません。「生産性」というのは、経済を評価する中で重要な指標です。ただ、近年はこの「生産性」という言葉が、あいまいな解釈のまま議論され、言葉だけが独り歩きしているような印象があります。
そこで今回は、付加価値やGDPとも関係の深い「労働生産性」について取り上げたいと思います。
生産性とは、投入する資源(従業員数や労働時間など)に対する、産出量(付加価値額や生産量)の割合です。一定の資源投入量で、どれだけの価値を生み出すかという効率を表す指標といえます。
生産性の中で特に経済統計でよく使われる指標が「労働生産性」です。労働生産性は「労働者1人が1時間当たりに稼ぐ付加価値」という意味です。式に表すと以下のような形となります。
労働生産性 = 労働者1人当たり付加価値 ÷ 労働時間
この中で、付加価値は「産出額から中間投入を控除したもの」となります。計算式としては、次のような形で表せます。
付加価値 = 人件費 + 支払利息等 + 動産・不動産賃借料 + 租税公課 + 営業純益
実感としては、付加価値は「粗利」に近いものだと考えていただければ良いと思います。労働者や機械が「単位当たりに産出する生産数」も生産性といえますが、ここまで紹介した労働生産性とは意味が異なりますね。特に、日本の製造業で生産技術や生産管理などに携われている方は、この生産数に対する生産性を重視していると思います。このような単位当たりの生産数は、労働生産性と明確に分ける意味で、本稿では「生産効率」と呼ぶことにします(勝手な造語になってしまいますが、ご容赦ください)。
労働生産性と生産効率は、概念は似ていますが、全く異なりますので、混同しないようにご注意ください。特に製造業では、高い「生産効率」を誇っているけれども、「労働生産性」の低い企業もたくさんあると思います。
労働生産性を議論するには、まず計算式の分母である労働者の平均的な労働時間を知る必要があります。図1は先進国だとされる各国で構成されるOECD(経済協力開発機構)各国の労働者の平均労働時間の推移を表したグラフです。
日本を含め各国とも右肩下がりで、年々労働時間が短くなっている傾向であることが分かりますね。日本は長時間労働のイメージがありますが、それは1990年のバブル崩壊あたりまでで、その後は急速に平均労働時間が短くなっています。もちろん、この統計データにはいわゆる「サービス残業」の時間は含まれませんので、あらかじめご留意ください。
直近(2019年)の各国の平均労働時間は以下の通りとなります。
日本は米国や韓国、イタリアよりも労働時間が短く、既にOECDの平均値すら下回っていることになります。
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