情報通信研究機構は、「パブロフの条件反射」の脳内での仕組みを解明した。条件刺激と無条件刺激を同時に与えることを繰り返すことで、摂食行動を司令するニューロンに新しいつながりができて、ニューロンの活動を操れるようになる。
情報通信研究機構(NICT)は2021年8月5日、記憶の代表例であるパブロフの条件反射の脳内での仕組みを解明したと発表した。
パブロフの条件反射は、19世紀末にイワン・パブロフが試みた実験で、イヌに条件刺激(音)を与えてから、無条件刺激(エサ)を与えることを繰り返すと、音を聞いただけでよだれを垂らすようになるというものだ。今回の実験では、ショウジョウバエを用いた。
ショウジョウバエは、遺伝子操作により特定の細胞の活動を観察したり操作したりできる。また、パブロフの実験では音を用いたが、今回は「ハエがつかんでいた棒を離す」ことを条件刺激とした。さらに、研究グループが開発した、脳内と行動を同時に観察する手法を用いて、条件反射の脳内変化を追跡した。
研究グループは以前の研究で、ショウジョウバエの脳内で、摂食行動を決定するための情報のハブとして機能するフィーディング・ニューロンを発見していた。本来は、エサを与えるという刺激がフィーディング・ニューロンの活動を操るが、今回の実験で棒を離す刺激とエサを同時に与えることを繰り返すことで、棒を離す刺激がフィーディング・ニューロンの活動を操るように変化したことが分かった。
パブロフのイヌの場合も同様に、音という条件刺激と無条件刺激のエサを同時に与えることを繰り返すことにより、摂食行動を司令するニューロンに新しいつながりができて、音の刺激でニューロンの活動を操れるようになる。これが条件反射の脳内での仕組みと推測される。
さらに、今回確立した条件反射の実験系により、細胞同士が記憶のためにつながる過程をリアルタイムで観察できるようになった。
研究グループは、この実験系を用いて、同グループが2005年に提唱した記憶の一般仮説「ローカルフィードバック仮説」の検証を進めている。今後、記憶の仕組みの解明が期待される。
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