北海道大学は、人間の触覚による形状認識の仕組みを説明する数理モデルを構築し、触覚で生じる錯覚現象を活用して、その触錯覚が生じなくなる現象を発見した。
北海道大学は2021年6月4日、人間の触覚による形状認識の仕組みを説明する数理モデルを構築し、触覚で生じる錯覚現象(触錯覚)を活用して、その触錯覚が生じなくなる現象を発見したと発表した。慶應義塾大学との共同研究による成果だ。
研究では、Fishbone Tactile Illusion(魚骨触錯覚)という現象を活用。これは、魚の背骨と肋骨の部分がわずかに盛り上がっている図を指でなぞると、盛り上がっているはずの背骨の部分がへこんで感じる錯覚だ。
物体に触れる際の指先の変形のうち、皮膚を伸縮させる方向の変形(水平変位)を実験的に減弱させた心理実験では、錯覚量が減少した。そこで、その背後にある触認知メカニズムを探るために、上下に動くピンを多数並べたピンマトリックスを利用して、触覚刺激のうち皮膚の垂直方向の機械刺激を取得する実験を実施した。
生体の触覚センサーである機械受容器の応答は、数理モデルで表現し、コンピュータ上に機械受容器を再現した。機械受容器を72個並べることで、機械受容野を構築した。
計算機上にバーチャルな触覚センサーを設計した上で、魚骨触錯覚を生じさせる機械刺激をシミュレーションし、指先の感覚神経が生じさせると推察される末梢皮膚内の感覚神経群の時空間応答を予測した。
心理実験では、素手で触れる場合には肋骨の間隔が4.0mmから0.4mmと狭くなるに従い、へこんで感じる確率が高くなった。一方、ピンマトリックスを用いて水平変位を弱めると、肋骨感覚が1.0mm、2.0mmの時に急激にへこんで感じる確率が低下した。
計算機実験の結果では、全てのピンマトリックス条件で、肋骨感覚が0.4mmの時に感覚ニューロンの神経活動の発火頻度が最大となった。一方で、神経活動電位の時間的なばらつきを評価した結果では、肋骨間隔が1.0mm、2.0mm、3.0mmの時に急激な減少を示した。
つまり、心理学実験と数値シミュレーション実験の結果を組み合わせて解釈すると、人間の指先が触覚を通じて形を認識する際、触覚刺激の強度に反映した感覚神経活動の頻度だけでなく、多数の感覚神経活動の時間的な頻度とタイミングのばらつきが形の認識に影響を与えることが明らかとなった。
人間の触知覚メカニズムは未解明な部分が多く、今回の研究成果は、インターネットを介して遠隔に高品質な触質感情報を伝達する情報技術開発への応用が期待できる。
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