東京大学は、ショウジョウバエの幼虫が不快な刺激を受けた際に、その場から後退して逃げる脳神経回路を発見した。異なる受容器で感知した不快な感覚情報を脳内で統合し、後退運動へ変換する仕組みを神経回路レベルで解明した。
東京大学は2020年11月3日、ショウジョウバエの幼虫が不快な刺激を受けた際に、その場から後退して逃げる脳神経回路を発見したと発表した。異なる受容器で感知した不快な感覚情報を脳内で統合し、後退運動へ変換する仕組みを神経回路レベルで明らかにした。同大学大学院理学系研究科 教授の榎本和生氏らの成果となる。
ショウジョウバエの幼虫は、機械刺激や光刺激などの不快な情報を頭部に受けると、前進運動、回転運動、後退運動など複数の行動パターンから、状況に応じて最適な行動を選択する。例えば、単回の不快刺激を頭部に受けた時は、前進運動、回転運動を選択する。連続して不快刺激を受けた場合は、後退運動を使って逃げようとする。
研究チームは、人工的に脳内の特定神経細胞を特定パターンで活動させる光遺伝学を用いて、ショウジョウバエ幼虫の脳内で、少数の神経細胞を活性化させる手法を確立した。この手法により、幼虫に後退運動を起こさせる後退神経細胞群を網羅的に同定し、同定した神経細胞間のネットワーク様式を決定した。
実験では、青色刺激に対する後退神経細胞群の応答を調査。ショウジョウバエ幼虫は不快な青色刺激を頭部光受容器と体表面上の表皮痛覚神経細胞で感知するが、異なる感覚器から入力した青色光の情報は、異なる神経回路を経由して1つのハブ神経細胞に収束していた。
そのハブ神経細胞の活動によって運動神経細胞の活動が制御され、後退運動へと変換することが分かった。
生物の行動選択の仕組みは、生まれながらに脳神経回路に組み込まれていると想定されているが、具体的な仕組みは不明だった。研究チームはこれまでに、ショウジョウバエ幼虫で前進運動、回転運動などの逃避行動を生み出す脳神経回路を同定しており、今回の研究成果により、状況に応じて最適な行動を選択する行動選択の神経回路のメカニズム解明が期待される。
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