理化学研究所は、弱毒生ワクチンを経鼻感染させると、さまざまなウイルス株に対して感染を防御できる広域中和抗体が産生されるメカニズムを解明した。
理化学研究所は2021年7月15日、接種したウイルス株に対して有効な不活化ワクチンと異なり、弱毒生ワクチンを経鼻感染させると、さまざまなウイルス株に対して感染を防御できる広域中和抗体が産生されるメカニズムを解明したと発表した。これは同研究所と東京理科大学を中心とする共同研究グループによる成果だ。
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一般的にインフルエンザ予防に用いられるのは、病原性をなくした不活化ワクチンだ。接種したウイルス株に対して有効性が高いものの、新型インフルエンザなど構造の異なるウイルス株に対しては効果が低い。
一方で、弱毒化させたウイルスを用いる生ワクチンを経鼻投与した場合、新型インフルエンザに対しても有効であることが報告されている。このことから、弱毒生ワクチンによって、さまざまなウイルス株に対しても感染を防御できる広域中和抗体が産生されている可能性が考えられてきた。
今回の研究では、2009年にパンデミックを引き起こしたインフルエンザウイルス株から作製した不活化ワクチンをマウスに接種した。別のマウスには、生きているパンデミック株を経鼻投与した。その後、それぞれのマウスから抗体を分離して、別のマウスに移入し、毎年のインフルエンザウイルス感染の原因となっている季節性インフルエンザウイルスに感染させた。
その結果、不活化ワクチン接種により産生した抗体を持つマウスは死亡したが、生きたパンデミック株の抗体を移入したマウスは季節性インフルエンザウイルスを防御し、広域中和抗体を産生していることが示された。
次に、ウイルス感染により広域中和抗体が産生するメカニズムを、ウイルスの侵入経路とウイルス複製の2つの点から調べた。ウイルスの侵入経路は経鼻で統一した。
生きたパンデミック株ウイルスを、ウイルスを複製しないTmprss2欠損マウスに感染させたところ、広域中和抗体は産生されなかった。また、その抗体を移入したマウスは季節性ウイルス株に対する抵抗性を示さなかった。
一方、生きたパンデミック株を感染させた野生型マウスでは、抗原に特異的な抗体分子を産生するB細胞で、パンデミック株と季節性ウイルス株に共通する抗原部位(エピトープ)を認識する抗体が産生されていた。
続いて、ウイルスの複製と広域中和抗体の関係を解明するため、リンパ節の中でもB細胞の増殖や選別を担う「胚中心」と、細胞間で情報をやりとりするインターロイキン-4(IL-4)などを産生して、B細胞の抗体産生を補助する「濾胞製ヘルパーT細胞(TFH細胞)」について、これらを持たないマウスに生きたパンデミック株を感染させた。その結果、広域中和抗体は産生されなかった。
さらに、ウイルス感染した野生型マウスではTFH細胞が顕著に活性化していたこと、B細胞の増殖を促進するIL-4を持たないマウスは胚中心が形成不全となり、広域中和抗体がほとんど産生されなかったことから、ウイルス感染時に産生される抗体の多様性を広げる上で、IL-4の働きが重要であることが分かった。
これらの成果から、生きたウイルスが鼻から侵入して感染すると、TFH細胞が活性化してIL-4を誘導し、胚中心でB細胞が増殖することが分かった。その後ウイルス株に共通するエピトープを認識するB細胞が選別され、広域中和抗体が産生するというメカニズムが解明された。
今回の研究で明らかになった、弱毒生ワクチンの有効性と広域中和抗体産生のメカニズムは、インフルエンザウイルスだけでなく、変異型新型コロナウイルスにも有効なワクチンを開発するための重要な知見といえる。
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