今回開発した試作機は、潮流発電システムを搭載したブイにより、京セラの「GPSマルチユニット」とそこに接続された海水温センサーや流速センサーなどに電源を供給し、データの収集と通信を行う。GPSマルチユニットはGPS、GLONASS、みちびきによる位置情報に対応し、各種センサーとアンテナをコンパクトなサイズのユニットに搭載している。
潮流発電システムは、ブイと発電部が分離しタービン周辺にディフューザーを付けたSLTT(Small Lens type Tidal Turbines)タイプと、ブイに発電部が直結したVTT(Vertical axis Tidal Turbines)タイプを活用した。それぞれ、最適な発電効率を実現するため、形状設計については、AIと遺伝的アルゴリズムを活用したジェネレーティブデザインを活用した。「STLLタイプはどちらかといえば流速の速い潮流での発電に適している。VTTタイプは低速、低トルクでの発電に適しており、これらの特徴を生かし、それぞれのシステムに最適な場所で活用する」と長崎大学 教授の経塚雄策氏は述べている。
実海域試験では、長崎県五島市奈留町の末津島付近4カ所で実施。潮汐周期における大潮から小潮までの9日間、内蔵の加速度センサー、温湿度センサー、地磁気センサーに加え外部接続した電磁流速計から水温、流速、流向、バッテリー電流、電圧など計21チャンネルのデータをセンシングし、クラウドに送信を行った。
その結果、SLTTタイプではセンシング間隔を5分、データ送信間隔を5分としたが、潮流発電システムによる平均発電量が、平均消費電力量を上回り、環境発電による電池交換なしの海上運用が可能であることを示した。一方で、VTTタイプでは、センシング間隔を60分、データ送信間隔を60分としたが、平均発電量が平均消費電力量を下回る結果となり、想定した成果を得ることができなかったという。「設置地点では上げ潮での潮流が想定したほどなく、そこで発電を行うことができなかった。また、漂流物による問題などもあり、実験によって理解できた点も多かった」と長崎大学の経塚氏は述べた。
今回の共同研究および実証では、まず実海域での運用が可能である点が確認できただけで実用化に向けての課題はまだ多いが「スマートブイそのものの開発については2022年度中をめどに完成させる計画だ。その後、ビジネス面で成立する領域を探索していく。スマートブイそのものの販売などもあるが、得られたデータをIoT基盤などを通じて提供するデータビジネスなども検討する」と京セラの能原氏は語る。今後はまず利用が想定されるところで潮流の流速と発電についてのデータを集め、使用可能な環境条件を導き出すことを目指す。価格については「できる限り安くはしたいが試作機も含めてまだ手探りの状態で何ともいえない」(京セラ能原氏)としている。
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