この金型による生産アプローチに、今回の題材である球状の小物入れの本体部を当てはめてみると、いろいろな問題が見えてきます。
図4のように、金型の分割位置を本体の縁で設定した場合、金型を開くときに干渉してしまい、金型を開くことができず“金型としては不成立”となります。
では、分割位置を製品の一番膨らんでいる部分に設定したらどうなるでしょうか。
図4の場合とは異なり、図5では金型が開くときに干渉は生じません。しかし、今度は製品を取り出す際に干渉があり、金型から製品を取り出すことができません……。
このような、金型が開いたときに成立しない製品形状のことを「アンダーカット」といいます。厳密にいえば、アンダーカットに対して適切なアンダーカット処理を施すことで、金型で成立する場合もあります。しかし、今回の製品のように内側が全周アンダーカットになる形状では、アンダーカット処理をすることも難しく、金型で成立しない形状となります。
では、この球状の小物入れを金型で成立させるためには、どうすればよいのでしょうか? いくつかの解決アプローチが考えられますが、ここでは例として2つの方法を紹介します。
解決案(1)は、アンダーカットとなる形状を解消してしまう方法です。図6のような形状に変更することで、先ほど金型から取り出すことができなかった形状が取り出せるようになります。
ただし、今回のような形状変更をした場合、極端に肉厚が厚くなってしまう部分が生じます。また、一般の肉厚との差も大きいです。このようなケースでは、金型で製品を成形する際に、別の不具合が生じる可能性も高くなります。この“肉厚による不具合”については、次回詳しく取り上げたいと思います。
解決案(2)では、本体側のアンダーカットになる部分をフタ側に付けてしまうことで、製品を金型から取り出せるようにします。この形状修正の場合、肉厚は一定になりますので、先ほどの解決案(1)のような“肉厚による不具合”のリスクは生じません。
しかし、図8に示した3Dデータを見れば一目瞭然ですが、フタと本体の関係性が変わってきてしまいます。もし、小物入れ本体部の深さが従来形状通りの寸法で必要であれば、この修正は金型としては成立していますが、製品用途には適さないため形状NGとなります。
以上のように、3Dプリンタで試作した製品が量産時に金型で成立せず、製品形状を修正しなければならない……というシチュエーションは多々あります。製品の裏側にあるリブの移動程度であれば大きな問題ではありませんが、今回紹介した解決案(2)のような修正になると、外観に大きな影響を及ぼしてしまいます。
3Dプリンタは、手軽に試作ができる良いツールです。ただ、もし金型による量産適用を考えているのであれば、今回のような視点を意識した設計、3Dデータ作成が必要になってきます。これが3Dプリンタによる試作から金型による量産適用へスムーズに移行するためのコツになります。 (次回に続く)
落合 孝明(おちあい たかあき)
1973年生まれ。2010年に株式会社モールドテック代表取締役に就任(2代目)。現在、本業の樹脂およびダイカスト金型設計を軸に、中小企業の連携による業務の拡大を模索中。「全日本製造業コマ大戦」の行司も務める。また、東日本大震災をうけ、製造業的復興支援プロジェクトを発足。「製造業だからできる支援」を微力ながら行っている。
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