量産樹脂製品設計の現場でよくあるトラブルを基に、その原因と解決アプローチについて解説する連載。第1回は、3Dプリンタで試作した製品を量産しようとした際、そのままでは金型に展開できず設計の見直しを余儀なくされた……というトラブルだ。問題の原因はどこか? その解決アプローチとは?
皆さん、こんにちは! モールドテックの落合孝明です。当社は樹脂製品、金型の設計屋です。樹脂といえば、ここ数年で家庭用の低価格3Dプリンタの精度が著しく向上し、モノづくりのハードルはかなり下がったといえます。とはいえ、“量産”となると、やはり金型が必要になってきます。「3Dプリンタで製作した試作品を基に、金型で量産品を作る」というアプローチにおいて、いろいろな弊害が発生します。
本連載では、量産樹脂製品設計の現場でよくあるトラブルを基に、その解決アプローチについて解説していきます。早速、相談内容を見ていきましょう。
図1のような球状の小物入れの製作を考えています。3Dプリンタで試作した製品を量産するため、金型に展開しようとしたところ、「フタは問題ないが、この本体の形状では金型の加工ができない」といわれてしまいました。一体どこが原因で金型に展開できないのでしょう……。アドバイスをいただき、量産向けに設計の見直しをお願いできますか?
実は、今回のような問い合わせはかなりの頻度で発生しています。「3Dプリンタで製品を作る場合」と「金型で製品を作る場合」とでは、その過程は全く異なります。それぞれの工程を理解していないと、今回のようなトラブルが起こり得ます。
それぞれの特徴を簡単に説明すると、
といったように、製作工程は異なり、その違いはとても大きな差といえます。それでは、今回の相談内容となる球状の小物入れを用いて、その違いを具体的に見ていきましょう。
まずは、3Dプリンタを用いた場合です。皆さんは、年賀状を印刷するとき、PCで作成した年賀状のデータを基にプリンタで印刷しますよね。大まかにいえば3Dプリンタも同様で、PCで造形したい形状の3Dデータを作成し、それを3Dプリンタで出力するというイメージです。
3Dプリンタの種類と造形方式は大きく、
に分類できます。図2は、FDM方式の3Dプリンタのイメージです。
このFDM方式の3Dプリンタは、3万円以下の価格で販売されているものもあり、値段の割に高精度で出力できる機種も数多く登場しています。また、最近ではUVレジンに紫外線を当てて必要な形状に硬化させる光造形方式の3Dプリンタも低価格化が進んでおり、3Dプリンタの選択の幅も広がってきています。さらに、専門業者による3Dプリントサービスも広がっており、本体を所有していなくても3Dプリンタで造形した製品を手にすることが可能です。
もちろん、3Dプリンタ/3Dプリントサービスの利用には3Dデータが必要ですが、数年前と比較して、3Dプリンタ利用に対するハードルは格段に下がってきたといえます。細かなことをいえば、使用する機種や造形方式、材料などにより、精度や造形時の制約なども異なってきますが、きちんとした3Dデータさえあれば、まさに印刷感覚で、データ通りの製品を作り出すことができます。
今回の題材である球状の小物入れも、まずは試作品を3Dプリンタで製作したというわけです。
3Dプリンタで製品を作る場合、材料を直接その形状に固めていきますが、樹脂製品を大量に作るためには、樹脂を金型に流し込んで成形する必要があります。たい焼きの型に材料を流し込んで、たくさんのたい焼きを焼くようなイメージです。
基本的な金型の動きは以下の通りです。
この一連の動きを繰り返すことで、金型を用いて大量生産を行います。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.