こんなに過酷な高熱環境になると、もう金属は使えない。どんな耐熱合金であっても溶けて強度を失ってしまう。そこで、はやぶさシリーズのカプセルのヒートシールドには、強度と軽量性に優れるCFRP(炭素繊維強化プラスチック)をアブレータとして採用している。
CFRPであってもやはり溶けてしまうのだが、アブレータはこの「溶ける」ということを積極的に利用する。氷が水になるのも、水が水蒸気になるのも吸熱反応である。アブレータの表面が熱分解でガス化するときも熱を吸収するので、冷却効果が期待できるわけだ。
さらに表面から熱分解ガスを出すことで、外部の超高温気体と直接接触するのを防ぐ効果もある。こういった耐熱機能により、気温が1万℃であっても、アブレータ表面の温度は最高3000℃程度まで抑えられる見込みだ。
降下中に「溶ける」といわれるとちょっと不安になってしまうが、空力加熱を受ける時間は限られているので、そこは厚さでカバーすれば大丈夫だ。はやぶさ2のヒートシールドは、熱的に最も厳しい前面で約3cm、そこまでの熱は受けない背面で約1cmの厚さになっている。
樹脂が溶けたあとのCFRPは炭化層を形成するが、強度は高いままなので、カプセルの形状を維持できるというメリットがある。ただ、ヒートシールドは耐熱性と断熱性に優れるものの、そもそも小型で熱容量が小さく、最終的には表面の温度が内側まで伝わってしまう。そのため途中でヒートシールドを分離し、熱の伝わりを防いでいる。
はやぶさ2は開発期間が短かったということもあり、再突入カプセルの設計はほぼ初号機を踏襲している。しかしその中でも、いくつかの改良が行われており、特に注目したいのが、開傘トリガーの冗長化と、再突入飛行計測モジュール「REMM」の追加である。これについては、次回の後編で詳しく見ていくことにしたい。
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