大気圏への再突入において、大きな問題となるのは高熱からどうやって身を守るか、ということだ。低軌道の周回衛星などは、この高熱を利用して焼却処分しているのだが、もし何も対策をしなければ、このように燃え尽きてしまう。
この高熱は、「空力加熱」により発生する。気体は圧縮すると温度が上がる性質がある。再突入カプセルは、地球大気に秒速12kmという超高速で突っ込むため、正面の空気は横に逃げる間もなく圧縮される。これにより、カプセル前面の気体の温度は、1万℃を超えると考えられている。
空力加熱は「摩擦熱」と間違いやすいのだが、両者は異なる現象なので注意してほしい。カプセルの温度上昇には、摩擦熱も含まれてはいるものの、ここで圧倒的に大きいのは空力加熱である。空力加熱は大気が濃くなる高度100km以下で始まり、高度80〜40kmあたりが最も厳しいとみられている。
熱的な厳しさは、加熱率(MW/m2)で表すことができる。はやぶさ2のカプセルの場合、この加熱率は約13MW/m2にも達する。ちょっとピンと来ないだろうが、これは1000Wのストーブ1万3千台を1m四方に並べたときの熱に相当する。初号機の14MW/m2よりは少しだけ小さいものの、スペースシャトルと比べれば約30倍もの大きさだ。
じつは、加熱率だけを考えるのであれば、形状はもっと平べったい方が望ましい。しかし平べったいと、遷音速の領域で姿勢が不安定になり、パラシュートが開けなくなる恐れがあった。そのため加熱率は大きくなってしまうものの、安定性を維持できる現在のカプセルの曲率になったという。
これほどの高温に曝されても、サンプルの変質を避けるため、カプセルの内部は50℃以下を保つようにとの厳しい要求が課せられている。こんな小さなカプセルで、いったいどうやったら1万℃という高温から中身を守ることができるのか。それを可能としたのが、「アブレータ」と呼ばれる耐熱材料だ。
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