日本の製造業を取り巻く環境と世界の“不確実性”の高まり:ものづくり白書2020を読み解く(1)(5/5 ページ)
2020年版ものづくり白書では、パンデミック以外にも各国の政策や国際情勢、事業環境の急激な変化などの予測し難い事態をまとめて「不確実性」と総称し、世界では不確実性が高まっていることを指摘している。2020年版ものづくり白書では、世界の不確実性の例として下記の5つを挙げている。
- 新型コロナウイルス感染症がもたらしたサプライチェーンの寸断リスク
- 世界の政策不確実性と地政学リスクの高まり
- 自然災害を巡る不確実性と製造業
- 非連続な変化を引き起こす可能性のあるデジタル技術革新
- 自動車産業に見られる大きな変革(CASE)
2020年版ものづくり白書ではIMF専務理事クリスタリナ・ゲオルギエバ氏の言葉を引用し、不確実性は「ニューノーマル(新常態)になりつつある」としている。
このように不確実性が著しく高まっている世界での日本の製造業が進むべき道について、2020年版ものづくり白書では注目すべき戦略経営論として「ダイナミック・ケイパビリティ論」を紹介しており、「ダイナミック・ケイパビリティを強化することこそ、不確実性の高い世界における我が国製造業のとるべき戦略であるといえる」と述べている。
「ダイナミック・ケイパビリティ」とは戦略経営論における学術用語で、「企業変革力」と訳される。このダイナミック・ケイパビリティ論は、カリフォルニア大学バークレー校ハース・ビジネススクール教授のデイヴィッド・J・ティース氏によって提唱され、近年、注目を浴びている戦略経営論だ。第2回では、このダイナミック・ケイパビリティ論について掘り下げたい。
≫「ものづくり白書を読み解く」の連載記事一覧
長島清香(ながしま さやか)
編集者として地域情報誌やIT系Webメディアを手掛けたのち、シンガポールにてビジネス系情報誌の編集者として経験を重ねる。現在はフリーライターとして、モノづくり系情報サイトをはじめ、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
- データで見る日本の製造業、日本を取り巻く3つの潮流
日本のモノづくりの現状を示す「2019年版ものづくり白書」が2019年6月に公開された。本連載では3回にわたって「2019年版ものづくり白書」の内容を掘り下げる。第1回では「第1章 平成の製造業とものづくり白書の変遷」「第2章 日本のものづくり産業が直面する課題と展望」を中心に、日本の製造業の現状について整理した上で、日本の製造業を取り巻く3つの潮流を概観する。
- 「ものづくり白書」に見る、日本の製造業が持つべき4つの危機感
日本のものづくりの現状を示す「2018年版ものづくり白書」が公開された。本稿では、本文の第1部「ものづくり基盤技術の現状と課題」の内容を中心に、日本の製造業の現状や主要な課題、課題解決に向けた取り組みなどを2回に分けて紹介する。前編では、4つの危機感の詳細とともに日本の製造業が直面する2つの主要課題について取り上げる。
- デジタル変革で何ができるか、医療現場の革新を目指すオリンパスのビジョンと苦労
MONOist、EE Times Japan、EDN Japan、スマートジャパン、TechFactoryの、アイティメディアにおける産業向け5メディアは福岡市内でセミナー「MONOist IoT Forum 福岡」を開催。後編では特別講演のオリンパス カスタマーソリューション開発 グローバル ヴァイスプレジデントである相澤光俊氏による「顧客価値向上を実現するオリンパスのICT-AIプラットフォーム」、経済産業省 製造産業局 ものづくり政策審議室 課長補佐である住田光世氏による「2019年版ものづくり白書の概要」などについてお伝えする。
- 製造業のデジタル変革は第2幕へ、「モノ+サービス」ビジネスをどう始動させるか
製造業のデジタル変革への動きは2018年も大きく進展した。しかし、それらは主に工場領域での動きが中心だった。ただ、工場だけで考えていては、デジタル化の価値は限定的なものにとどまる。2019年は製造業のデジタルサービス展開がいよいよ本格化する。
- 日本版第4次産業革命が進化、製造含む5つの重点分野と3つの横断的政策(前編)
経済産業省は2017年3月に発表した日本版の第4次産業革命のコンセプトである「Connected Industries」を進化させる。より具体的な取り組みを盛り込んだ「Connected Industries 東京イニシアティブ 2017」を新たに発表した。本稿では2回に分けてその内容をお伝えする。
- 「第4次産業革命」に抵抗感? 調査で分かった日本の製造業の本音
IoTやAIなどを活用する「第4次産業革命」の動きが活発化している。しかし、国内外の企業を調査したアンケートでは、日本の製造業はこの革命に積極的な姿勢を見せているとは言い難い。いわば、第4次産業革命に対してやや及び腰になっているといえる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.