製造業のデジタル変革への動きは2018年も大きく進展した。しかし、それらは主に工場領域での動きが中心だった。ただ、工場だけで考えていては、デジタル化の価値は限定的なものにとどまる。2019年は製造業のデジタルサービス展開がいよいよ本格化する。
2018年も製造業にとってはIoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)などによるデジタル変革の動きが進んだ1年となった。特にスマートファクトリー化への取り組みについては、既に数多くの企業が実証から本格運用のフェーズに入っており、取り組みの種類や幅も大きく広がりを見せている。
ただ一方で、日本の製造業が取り組みの遅れを指摘されているのが、デジタル化による新たなビジネスモデルの構築である。IoTやAIの活用により、製造業は従来の「モノ」を提供するビジネスモデルから、得られたデータから生み出される「コト(価値)」を提供するサービスビジネスモデルが可能になる。これらを生かした「モノ+サービス」による新たなビジネスモデル構築への期待が高まっている。
2018年までは、一部の先進企業が取り組みを進める一方で、日本の多くの企業では取り組みあぐねていた状況があった。しかし、さまざまな状況整理や障壁解消への動きも進み、2019年はいよいよ工場など社内に向けたデジタル変革ではなく、製品やサービスなど社外に向けた動きが広がってくる見込みだ。
経済産業省が毎年発行しているモノづくりの動向を示す「ものづくり白書」ではここ数年、第4次産業革命をテーマとしている。その中で特に懸念を示しているのが、この「モノ+コト」のビジネスモデル構築である。2018年版では、デジタル変革によってもたらされる第4次産業革命の動きの中で、新たな付加価値を生む取り組みに対する危機感を示し、対応しなければならない「直面する2つの主要課題」を示していた。
1つは「人材不足」の問題である。労働力不足による人材不足についてはあらゆる業界で深刻化している他、デジタル変革に必要なデジタル人材などの確保にも苦戦する状況が生まれている。
もう1つが、モノづくりだけの付加価値の低下である。当然、「モノ」としての価値は残るが「モノ」だけで実現できることは限定的になってきている。例えば、iPhoneがスマートフォン市場を切り開いたのはハードウェアが優れていたというわけではなく、iTunesというプラットフォームをベースにアプリベンダーなどを含めたエコシステムを構築できたからである。このような「モノ」だけで消費者が求める価値が実現できない時代に対し、モノづくり企業はどう立ち向かうのかという点を考えねばならない。
この内「人材不足」への対応として進むのが、スマートファクトリー化などIoTやAI、ロボティクスなどの活用を広げ、自動化領域を拡大する取り組みだ。
一方で、モノづくりの付加価値向上に向けては、モノとデータサービスなどを組み合わせた「製造業のサービス化」がポイントだとされている。モノから得られたデータを分析し、知見を導き出し、現実世界にフィードバックし、それをサービスとして提供するという仕組みだ。代表例としては、GEやロールスロイスなどが取り組む航空機エンジンなどの例がよく挙げられている※)。
※)関連記事:製造業は「価値」を提供するが、それが「モノ」である必要はない
日本の製造業では、人材不足対策に対するスマートファクトリー化などへの取り組みは積極的であるが、新たなビジネスモデル構築については消極的だとされてきた。実際に製造業にとって「モノ」以外の価値を示すといっても難しいのが現実だろう。
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