本稿の冒頭でも触れたが、2020年1月に中国湖北省武漢において最初に発生した新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大は、日本の製造業にも深刻な影響をもたらした。2020年版ものづくり白書は、新型コロナウイルス感染症の拡大が、日本の製造業におけるサプライチェーンの寸断リスクを顕在化したと指摘する。
湖北省武漢には自動車産業の集積地として国内自動車メーカーや同部品メーカーなどが進出しており、現地で生産されたバネや繊維・樹脂製の部品、素材などを輸入していた。そのため、部品調達の寸断を背景に多くの進出企業やその拠点が操業停止を余儀なくされただけでなく、中国に進出している日系企業や中国と取引のある国内企業、インバウンド消費、サプライチェーン全体に大きな影響を与えた(図13)。
製造業は1980年代半ば以降、グローバルサプライチェーンを形成してきた(図14)。このグローバル・サプライチェーンは効率性の点からは確かに優れていたが、今回の新型コロナウイルス感染症の感染拡大など予想外の事態が生まれるたびに、その欠陥が顕在化することとなっている。
特に、日本の製造業のサプライチェーンにおいて、中国の占める役割は2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)発生の頃と比べてより大きなものとなっている。財務省「貿易統計」によると、2019年第4四半期における製造業の輸出額のうち20.8%、輸入額のうち25.0%を中国が占め、2003年当時の2倍以上の水準となっている(図15、16)。これらはともに非製造業も合わせた全体の総額よりも高い水準であり、製造業は他業種と比べて中国との取引が多いといえる。これらを踏まえて、効率性だけでなく経済安保の観点も含めて、柔軟性を備えたサプライチェーンの再構築が必要とされる。
3月中下旬以降に各国で外国人の入国制限や渡航禁止、外出禁止などの移動制限が行われるようになると、需要の急減が自動車産業をはじめとする国内製造業に直接的な打撃を与え、各自動車メーカーの国内拠点においても生産停止に追い込まれる事例が相次いだ。新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う消費や設備投資の減少といった実体経済への影響は、今後もさらに深刻化する恐れがあり、日本の製造業にとっても今後の見通しが立てにくい状況が続いている。
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