日本のモノづくりの現状を示す「2020年版ものづくり白書」が2020年5月に公開された。本連載では3回にわたって「2020年版ものづくり白書」の内容を掘り下げる。第1回では日本の製造業の現状について整理した上で、日本の製造業を取り巻く“不確実性”について解説する。
日本政府は2020年5月に「令和元年度ものづくり基盤技術の振興施策」(以下、2020年版ものづくり白書)を公開した。ものづくり白書とは「ものづくり基盤技術振興基本法(平成11年法律第2号)第8条」に基づき、政府がものづくり基盤技術の振興に向けて講じた施策に関する報告書で、経済産業省、厚生労働省、文部科学省の3省が共同で作成している。
過去を振り返ると、2018年版ものづくり白書の「総論」では、企業経営者が持つべき下記の「4つの危機感」を紹介していた(※)。
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これを受けて、2019年版ものづくり白書では、上記の課題や方向性とその後の環境変化を踏まえ、第4次産業革命下における戦略として、下記の4点が重要であると指摘した(※)。
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一方で、第20回の節目となる2020年版ものづくり白書は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)(以下、新型コロナウイルス感染症)の世界的な感染拡大が進行する中で策定された。製造業は日本経済の中で2020年4月1日時点においてGDP(国内総生産)2割を占めるなど中心的な位置付けにあるが、この新型コロナウイルス感染症がもたらした危機は、製造業に供給と需要の両面から影響を及ぼしている。この経済的被害は既に2008年のリーマンショック時を上回っており、深刻な経済状況をもたらす恐れがある。そのため、過去の課題や戦略が当てはまらなくなった状況も生まれている。
このような背景もあり、2020年版ものづくり白書では新型コロナウイルス感染症拡大の影響に加え、米中貿易摩擦に代表される保護主義的な動きの台頭、地政学的リスクの高まり、急激な気候変動や自然災害、非連続な技術革新のもたらす影響などを「不確実性」という概念でまとめ、不確実性の高まる世界における日本の製造業の現状と課題を分析し、そのリスクに対処するための方策として下記の4つを提起している。
本連載では3回にわたって2020年版ものづくり白書の内容を掘り下げるが、第1回ではまず、2020年版ものづくり白書の「第1章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望」を中心に日本の製造業の現状について整理したうえで、新型コロナウイルス感染症拡大の影響も含めた近年の世界における不確実性の高まりを確認し、日本の製造業が講じるべき対策について読み解いていきたい。
日本の製造業の現状を確認する前に、まずは日本経済の全体的な動向について概観する。日本の経済成長率の指標となる実質GDP成長率の推移を確認すると、2013年以降、2014年4月の消費税率引き上げ後を除き、おおむね緩やかな回復基調が続いてきた(図1)。
2016年から2017年にかけて、雇用や所得環境の改善を背景とした個人消費の持ち直しや、設備投資の増加などが見られ、実質GDP成長率は8四半期連続の前期比プラスとなった。しかし、2018年に入ると、第3四半期には2018年7月豪雨をはじめとする相次ぐ自然災害の影響などにより企業設備投資や個人消費が悪化し、前期比マイナスとなった。2018年第4四半期以降は4四半期連続で前期比プラスとなり持ち直しが見られたが、2019年第4四半期においては、公需が内需を下支えする一方で、民間消費では5四半期ぶりのマイナス、企業設備投資が3四半期ぶりのマイナスとなり、前期比マイナス1.8%と2014年第2四半期以来の下げ幅となった。
また、日本のGDPに占める業種別の内訳を見ると、直近となる2018年についても製造業が20.7%と全体の2割以上を占め、日本の経済を支えていることが分かる(図2)。
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