日本のモノづくりの現状を示す「2019年版ものづくり白書」が2019年6月に公開された。本連載では3回にわたって「2019年版ものづくり白書」の内容を掘り下げる。第1回では「第1章 平成の製造業とものづくり白書の変遷」「第2章 日本のものづくり産業が直面する課題と展望」を中心に、日本の製造業の現状について整理した上で、日本の製造業を取り巻く3つの潮流を概観する。
日本政府は2019年6月に「平成30年度ものづくり基盤技術の振興施策」(以下、2019年版ものづくり白書)を公開した。ものづくり白書とは「ものづくり基盤技術振興基本法(平成11年法律第2号)第8条」に基づき、政府がものづくり基盤技術の振興に向けて講じた施策に関する報告書だ。経済産業省、厚生労働省、文部科学省の3省が共同で作成している。今回で19回目となる2019年版ものづくり白書は、新元号下で初めて閣議決定されたことから、平成における日本の製造業の振り返りも行っている。
2019年版ものづくり白書の本文に先立つ「総論」では、2018年版ものづくり白書の「総論」において紹介した、企業経営者が持つべき下記の「4つの危機感」を改めて紹介している。
2018年版ものづくり白書では、製造業の各経営者がこれらの課題に対し危機感を持って変革につなげていくことが不可欠であり、現場力の再構築や「Connected Industries」の推進こそが進むべき道であるという方向性を打ち出した。2019年版ものづくり白書では、これらの課題や方向性、直近における新たな環境変化を踏まえた上で、第4次産業革命下における日本の製造業が、今後も競争力を維持・強化するための戦略を4つ提起している。
本稿は3回にわたって2019年版ものづくり白書の内容を掘り下げるが、第1回では2019年版ものづくり白書の「第1章 平成の製造業とものづくり白書の変遷」「第2章 日本のものづくり産業が直面する課題と展望」を中心に日本の製造業の現状について整理した上で、日本の製造業を取り巻く3つの潮流を概観する。
製造業の直近の現状に目を向ける前に、「平成」における製造業の変遷を確認したい。「平成」を通じて製造業は、バブル崩壊、リーマンショック、中国をはじめとする新興国の成長、1995年頃や2008年頃に起きた急速な円高方向への動き、自然災害など多くの困難に直面し、厳しい時代が続いた(図1)。
2019年版ものづくり白書では、その19年間の歴史を景気の動きに合わせて「第I期:白書刊行開始からITバブル崩壊まで(2001年版から2002年版まで)」「第II期:小泉改革からリーマンショックまで(2003年版から2009年版まで)」「第III期:リーマンショック後からアベノミクスまで(2010年版以降)」の3期に分けて概観している(図2)。
この間、国内製造業の事業所数は1989年の42.2万から2016年の19.1万へ半減したが、1事業所当たり付加価値額や労働生産性は着実に上昇している(図3、図4)。
また、製造業のGDP構成比は平成に入ってから徐々に減少し、2009年には19.1%まで低下したものの、直近では20.7%まで回復し、2割程度で推移している(図5)。このことから製造業は平成の厳しい時代の中にあっても生産性を高め、日本経済における存在感を一貫して保ち、支え続けてきたといえる。
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