2019年版ものづくり白書では、グローバル化の動きは年々進展しているとするものの、一方で保護主義の高まりが世界の景況に悪影響を与えつつあると指摘する。特に、直近の米中貿易摩擦の状況を受け、米国による米国通商拡大法232条や通商法第301条に基づく追加関税措置の発動に見られる保護主義の動きが見逃せないものになっているといい(図19)、このような動きも背景として、EU(15か国)の輸出入の伸び率鈍化や、日本やASEAN(5か国)の輸出の減速傾向が見られることを挙げている(図20)。
この米国の保護主義的な動きが、2017年に回復した世界貿易を押し下げ、今後日本の製造業にも今まで以上に大きな影響を与える可能性があるといい、今後も米国や中国の内政をも含めた動向を注視し、グローバルなサプライチェーンの在り方について戦略的な対応が課題になるとしている。
モルガンスタンレーの2018年調査によれば、何らかの形でESG投資(環境:Environment、社会:Socia、企業統治:Governance)といった要素を考慮する投資)を行っている投資家は全体の約70%となり(図21左)、「アセットオーナーはサスティナビリティに取り組む責任がある」と考える投資家の割合は「強くそう思う」と「そう思う」を合わせると77%にも上る(図21右)。
 図21:(左)投資家へのアンケート「ESGを投資に組み込んでいるか」(右)投資家へのアンケート「アセットオーナーはサステナビリティに取り組む責任がある」と思うか(クリックで拡大)出典:2019年版ものづくり白書
図21:(左)投資家へのアンケート「ESGを投資に組み込んでいるか」(右)投資家へのアンケート「アセットオーナーはサステナビリティに取り組む責任がある」と思うか(クリックで拡大)出典:2019年版ものづくり白書このように、世界では社会的課題の解決に向けた投資機運の高まりが見られる。これを裏返せば、環境に配慮できない企業に対しては厳しく評価を行うということでもあり、社会的課題をビジネス上のリスクもしくは機会としてどう捉え、どう行動しているかが投資家から問われる時代になっていると指摘する。
2019年版ものづくり白書の総論では、これまで見てきたような最近の日本の製造業を取り巻く環境の著しい変化や潮流を踏まえ、第4次産業革命下における日本製造業の競争力強化につながる戦略として以下の4つを示している。
第1回では、2019年版ものづくり白書を元に、現在の製造業の立ち位置や課題について確認した。次回以降は2019年版ものづくり白書が提示するこれら4つの戦略について詳しく掘り下げていきたい。
長島清香(ながしま さやか)
編集者として地域情報誌やIT系Webメディアを手掛けたのち、シンガポールにてビジネス系情報誌の編集者として経験を重ねる。現在はフリーライターとして、モノづくり系情報サイトをはじめ、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
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