電力伝送に関しては、上述の「電流戦争」の通り、テスラによる交流方式が主流となって現在に至っている。しかし、世の中これが全てかといえば、必ずしもそうではない。現に、日本においても北海道と本州を結ぶ電力網である「北海道・本州間連係設備」、いわゆる北本連係は直流で設置されている。最初の北本連係設置は1979年であり、その後、2019年には青函トンネルを利用した新北本連係設備が導入されている。
導入に当たっては、北海道と本州を結ぶ際、条件が厳しい海底への敷設ということや、距離が短く、効率良く送電することが求められたことから直流を採用したようだ。交流で採用した場合、本州側の送電線などに故障が発生すると、道内にも波及してしまうため、本州側の影響を受けず、安定した電力供給が可能となる直流を採用したことも背景としてあるとのこと。まるで130年前の電流戦争の再現である。ということは、既成事実が全てではなく、今後も地域や環境に応じて柔軟な発想が求められるのではないだろうか。
テスラは晩年、無線電信、無線送電の開発に注力した。無線電信については、ラジオ放送、写真伝送などテスラが当時「世界システム」として名付けたことが実現している。しかし、無線送電に関しては、ニューヨーク郊外に高さ60mの巨大な塔(通称ワーデンクリフ・アンテナ塔)を建設し、研究に着手したが、道半ばで資金難により挫折した。
近年では、磁界共鳴方式など新しい方法や、走行中給電も研究されるなど、電気自動車への無線送電の可能性が高まっている。実用化へのステップが近づいているのではないだろうか。今後の開発が楽しみな技術である。
最後に、電気自動車に関連して数々の発明を行ったテスラの言葉を紹介して終わりとしたい。
「発明の究極の目的とは、自然の力を人類の必要に役立てながら、物質世界を超える精神の完全な支配をもたらすことである。(ニコラ・テスラ、1919年)」
和田憲一郎(わだ けんいちろう)
三菱自動車に入社後、2005年に新世代電気自動車の開発担当者に任命され「i-MiEV」の開発に着手。開発プロジェクトが正式発足と同時に、MiEV商品開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーに就任。2010年から本社にてEV充電インフラビジネスをけん引。2013年3月に同社を退社して、同年4月に車両の電動化に特化したエレクトリフィケーション コンサルティングを設立。2015年6月には、株式会社日本電動化研究所への法人化を果たしている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.