筑波大学は、大規模な比較ゲノム解析により、菌類の菌糸と多細胞性の起源の一端を解明した。菌糸と多細胞性に関わる遺伝子群の進化は、祖先真核生物遺伝子の使い回しや別機能への転用などの遺伝的変化と相関があった。
科学技術振興機構は2019年9月9日、筑波大学生命環境系微生物サステイナビリティ研究センター 准教授の竹下典男氏らが、大規模な比較ゲノム解析により、菌類の菌糸と多細胞性の起源の一端を解明したと発表した。ハンガリー科学アカデミー生物学研究所との共同研究による成果となる。
研究グループは、原始的な単細胞生物と菌類ではない近縁種、菌類である糸状菌および酵母の計72種類のゲノムデータを比較し、系統樹を作成した。これまでの研究で糸状菌は、ツボカビ様の祖先種から進化していることが報告されており、それを支持する系統樹となった。
また、細胞骨格、細胞壁、細胞極性、シグナル伝達、膜輸送など、形態形成の機能に関わる651遺伝子を選別して10の機能グループに分類し、72生物種でどのように保存されているかなどを比較調査した。その結果、菌糸と多細胞性に関わる遺伝子群の進化は、いくつかの遺伝的変化による祖先真核生物遺伝子の使い回しや、別機能への転用などの遺伝的変化と相関があった。
他の生物では、多細胞性の進化に遺伝子数の増加が関連することが示されているが、菌糸と多細胞性の進化においては、細胞接着やシグナル伝達に関わるリン酸化酵素などの遺伝子数に明らかな増加はなかった。このことから、菌類は独自の進化を遂げてきたことが示された。
菌類は生態系や食品生産・バイオ産業などに欠かせないが、一方で病原性を示すため、菌類の理解、菌糸生長の制御が求められている。今回の成果は、菌類の理解につながり、糸状菌を利用する食品分野やバイオ産業、農業・医学分野への貢献が期待できる。
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