中小企業の海外直接投資についても見てみよう。図20は大企業と中小企業の海外現地法人保有率の推移である。これを見ると、海外子会社を保有する中小企業の割合は増加傾向にあり、直近では14.2%の中小企業が海外子会社を保有している。
また、海外直接投資を行っている企業が進出した国や地域の推移を見ると、2000年代前半までは中国への進出が約50%を占めていたが、その後、中国に設立される子会社の数は緩やかに減少している(図21)。これに対して、ASEAN10をはじめとしたアジア諸国への進出が増加しており、この中でも、タイ、インドネシア、ベトナムへの進出割合が高くなっている。
これらのデータが示す通り、中小企業の海外展開は順調な伸びを見せている。今後、国内市場の縮小が予想される中で、海外市場の積極的な開拓は重要な取り組みになるといえる。
また、デジタル化の進展に伴い中小企業の海外展開を後押しする流れとして、ECを海外の顧客に向けて行う越境ECがある。図22は米国と中国消費者による日本の事業者からのEC購入額の推移を示すものだが、その市場規模は急速に拡大しており、2017年においては中国と米国の2カ国合計で約2兆円(中国1.3兆円、米国0.7兆円)となっている。海外の大手ECサイトも日本企業が利用しやすいような仕組みを構築している例も見られ、中小企業の海外展開のチャンスは拡大しているといえる。
第2回では、日本の人口減少に端を発する人手不足と、それに伴う労働生産性低下への対抗策として、デジタル化やグローバル化といった自己変革が中小企業に求められるという点について述べた。社会はこれまで以上の速度で変化していくと予想される中、その見通しは不透明であるものの、国内全企業のうち99.7%を占める中小企業は、引き続き日本経済や社会を支える重要な存在であり続ける。こうした中でこれからの中小企業に求められるのは、日本が置かれている現状を踏まえ、必要な自己変革を積極的に行っていくことだといえるだろう。
これまで、2回にわたって「人手不足」という視点を切り口に、中小企業の現状を掘り下げ、そしてその対応策として「デジタル化」と「グローバル化」を紹介した。ただ、経営者の高齢化に伴う次世代への事業継承も中小企業における大きな課題となっている。そこで、第3回と第4回では、中小企業における世代交代の実態について取り上げたい。
長島清香(ながしま さやか)
編集者として地域情報誌やIT系Webメディアを手掛けたのち、シンガポールにてビジネス系情報誌の編集者として経験を重ねる。現在はフリーライターとして、モノづくり系情報サイトをはじめ、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
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