テクノロジー、メディア、通信業界に関する世界と日本の予測レポートキャリアニュース

デロイト トーマツ グループは、テクノロジー、メディア、通信業界に関する世界の将来予測に日本独自の考察や分析を加えた「TMT Predictions 日本版」を発表した。

» 2019年05月10日 09時30分 公開
[MONOist]

 デロイト トーマツ グループは2019年4月22日、テクノロジー、メディア、通信(TMT)業界に関する将来予測をまとめた「TMT Predictions 2019 日本版」を発表した。

 TMT Predictions 2019 日本版は、TMT業界での世界的なトレンドを予測した「TMT Predictions」をベースに、業界の変化に日本企業がどう対処すべきか、日本独自の視点から分析を加えたレポートだ。

 TMT Predictions 2019 日本版では、以下の14テーマが取り上げられている。

 「5G(第5世代移動通信システム)」では、端末の世界的な販売規模が2020年までに1500〜2000万台になり、全てのスマートフォン販売の約1%を占めるようになると推計している。また、5Gが普及するために日本企業が超えるべきハードルとして「5G価値の消費者実感」「端末の低コスト化」「通信事業者の設備投資負荷」を挙げている。

 「AI(人工知能)」は、2020年までに世界のAIソフトウェア使用企業におけるAI統合型エンタープライズソフトウェアサービスの普及率が87%、クラウドベースAI開発サービスの利用が83%まで増加する見込みだ。今後、一般企業がAIを利用する「AIの民主化」が進むと予測され、その一方で、日本での「AIの民主化」には、AIに学習させることが難しい「日本語」、データサイエンティスト不足による「実用性」の問題、「データガバナンス」の3つのハードルがあるとする。

 「スマートスピーカー」は、2019年の世界市場規模が、前年比63%増の70億ドル(約7811億3000万円)に拡大すると予測。2017年にスマートスピーカーの発売が始まった日本では、認知度は60%ながら、普及率が3%程度にとどまっている。しかし、5GサービスやIoT(モノのインターネット)の進展に伴い、インフラ面の高度化と、いくつかの技術的な課題が解決することにより、家庭での導入が急速に進むと考えられる。

 「TVスポーツ、スポーツベッティング(賭け)」を見ると、北米ではテレビスポーツを視聴する18〜34歳の男性のうち、60%がスポーツで賭けをしており、同カテゴリの40%は、週に一度以上スポーツベッティングに参加していると推計される。日本では、法的、文化的な背景から、スポーツベッティングが直ちにビジネスの主流となることは考えにくい。日本でオンラインを含むスポーツベッティングの導入、展開を検討するには、条件や法的解釈の議論、制度の整備、場合によっては法改正などが必要になるため、時間を要すると考えられる。

 「eスポーツ」については、eスポーツの世界市場、特に北米の同市場が広告や放送権、フランチャイズリーグの拡大によって35%伸長すると予測。日本では、日本eスポーツ連合(JeSU)が2018年2月に発足し、プロライセンスの発行が開始された。2019年秋開催の「いきいき茨城ゆめ国体」では、eスポーツの競技会が文化プログラムで実施される予定だ。2018年の日本のeスポーツ市場は48.3億円規模と推定されており、2022年までの年間平均成長率は19.1%、金額規模で約100億円に到達すると予測されている。

 「ラジオ」は、世界規模では2019年に収益が前年比1%増の400億ドル(約4兆4632億円)に達する見込みだ。車の運転中にラジオを聴く人が多い米国や、ラジオ聴取率の高い欧州と日本の状況は異なるが、米国や英国のラジオ、音声メディアの動向は日本にとって参考になり得る。良質なコンテンツをライブ配信し、他にコンテンツをストック化して多面的なデジタルメディアで展開することにより、新たなラジオ利用のシーンが生まれる可能性もある。さらに、スマートスピーカーが自動車に搭載されることで一気にシェアが拡大するといったことも、ラジオ局にとってのビジネスチャンスとなる。

 「3Dプリンティング」は、同分野に関連する世界の大手上場企業の売上が、2019年に27億ドル(約3012億6600万円)を超え、2020年には30億ドル(約3347億4000万円)を上回ると予測されている。日本の3Dプリンティング市場の売上高は、2017年が前年比8.9%増の308億円。2022年には476億円の市場規模になると見込まれており、家庭向けよりもビジネスの製造現場における3Dプリンタの活用が想定される。

 「中国の通信環境」は、グローバル版レポートでは、2019年に中国での4GモバイルネットワークとFTTP(fiber-to-the-premise)の普及規模が世界最大になるなど、中国が世界有数の通信網を構築し、その状況が中期的に続くと予測する。5G投資やBATを中心とした中国のデータビジネス強化は、よりダイナミックに進展する可能性がある。日本企業は政治や経済などの環境変化とその影響を見据えて、中国のデータエコノミーに柔軟に対応できるよう体制を整える必要がありそうだ。

 「中国の半導体市場」については、グローバル版では2019年に中国で製造される半導体の収益は約1100億ドル(約12兆2738億円)に成長すると予測。日本の半導体企業の市場シェアは減少傾向にあり、米国や韓国、台湾をはじめ、中国の台頭によって競争がさらに激化する見通しだ。

 「量子コンピュータ」は、世界的には今後10年で、技術領域において最も期待できる収益機会の1つとなるものの、従来型のコンピュータの代替となる可能性は低そうだ。2030年代には、量子コンピューティング市場がスーパーコンピュータ市場と同等の年間500億ドル(約5兆5790億円)規模に拡大すると予測されるが、旧型のデバイスも毎年1〜2兆ドルの売り上げ規模を保つと考えられる。日本では、NTTや新エネルギー・産業技術総合開発機構、日立製作所、富士通などが、量子コンピュータやそれに発想を得た技術を開発している。

日本が取り組むべき日本独自の4テーマ

 TMT Predictions 2019 日本版では、日本企業が取り組むべき独自のテーマとして、「APIエコノミー」「IoTの活用」「IoTのリスク対応」「ロボティクス」の4つを取り上げ、世界の動向や日本の現状、対応策などを解説している。

 API(Application Programing Interface)を公開することで、自社や他社のサービスも活用して広がっていく経済圏「APIエコノミー」は、日本では開発現場と、特に大企業でのビジネスの現場にギャップが存在する。そのため、APIエコノミーの活性化やAPIを活用したビジネスを創出するまでに至っていない。この現状を打破するには、「企業内における情報資産、システムのAPI化と流通の促進」「API管理のケイパビリティの獲得、強化(内製化)」「外部のエコシステムとの接続と新しい価値創出」の3つのステップが必要であるとしている。

 次は「IoT活用における課題と処方箋」だ。5Gの実用化によってIoTは世界的に新たなステージに進もうとしているが、日本の普及率は世界に対して5年遅れているとも言われている。日本企業は5年先、10年先に起こり得る変化を踏まえて、将来目指すべき世界観や、IoTを活用してどのような価値を提供するかを描き出すことが重要となる。

 「IoTが企業にもたらすリスク」では、IoTの利活用で改革を成し遂げるには、セキュリティリスクにも注意する必要があるとしている。これまでサイバー攻撃を受けた企業は「被害者」だったが、その企業は、簡単に標的にされるIoT機器を放置していたという点で、サイバー攻撃に手を貸している「加害者」にもなり得る。欧米ではすでに調達品に対してセキュリティ要件を設けており、日本でも2020年4月からIoT機器のセキュリティ対策が義務化される。

 「ロボティクス」分野に関する考察では、先進国の労働力不足や新興国の賃金上昇などにより、世界的にかつてない規模でロボティクスブームが起こっている。日本は、加工工程を中心として自動化が進んでいるものの、工程全体の自動化率は現状で50%に達していないと見られる。今後は認識技術やAI、通信技術の進歩によって急速に完全自動化が進むと考えられる。

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