脚光を浴びるIoTだが、製造業にとってIoT活用の方向性が見いだしきれたとはいえない状況だ。本連載では、世界の先進的な事例などから「IoTと製造業の深イイ関係」を模索していく。第5回は、5Gとスマートファクトリーの関係性にスポットを当てる。
次世代移動通信システムである「5G」のユースケースが検討されて久しい。これまで自動運転や遠隔医療、映像配信などの領域における5Gの活用が通信事業者によって提唱されてきたが、最近注目されている領域の1つに「スマートファクトリー(スマート工場」がある。
ドイツは「インダストリー4.0」を提唱し、企業の枠を超えてあらゆるものをリアルタイムでネットワーク接続することで「工場の自動化」を促進している。さらに消費者ごとにカスタマイズされた商品の生産を可能にする「個別大量生産(マスカスタマイゼーション)」を目指しているが、実現にはIoT(モノのインターネット)とAI(人工知能)が必然であるとうたっている※)。
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この流れに対し、通信設備ベンダーや通信事業者は、同領域が5Gのユースケースの1つになるとして着目しているのはこれまでと同様だ。しかし、従来のように通信関連各社が5Gのユースケースをアピールするのではなく、製造業が5Gについて具体的な要求事項を提示し始めた。スマートファクトリーが、5Gのユースケースを模索する通信事業者の「シーズ」ではなく、製造業の「ニーズ」となったことは大きなインパクトである。
具体的に製造業から示されたニーズを示す前に、なぜ5Gがスマートファクトリーから必要とされ初めているかについて説明しよう。
急速に伸びるインターネット経由での購買行動だが、その動向は変化しつつある。具体的には、ただ単に大量生産製品を購入するのではなく、例えば消費者の体格に合った服や個人の嗜好に合わせた贈り物など、個々の消費者向けにカスタマイズされたものをインターネット経由で受注し生産するといったものだ。
このようなマスカスタマイゼーションの代表例が、ドイツのアディダス(Adidas)である。アディダスは、実店舗で計測した消費者の足の形に関する情報を工場に送り、そのデータに基づきロボットが全自動製造する「スピードファクトリー」を実現している。これまでアディダスは主にアジアで靴を生産していたが、顧客ごとにカスタマイズした商品を提供するためのスピードファクトリーをドイツ国内に設けた。結果、ローカルでデザイン、設計、製造することにより、注文から販売までの期間を大幅に短縮することに成功している。
日本国内でも類似の動きがないわけではない。オーダーメイド靴のKiBERA(キビラ)や2017年11月に発表され注目を集めたZOZOTOWNの採寸用ボディースーツ「ZOZO SUIT」もこの走りといえなくもない。ただ、アディダスのようなグローバル企業が、これまでの生産方式やサプライチェーンを大幅に見直し、大量生産におけるコスト削減と製品のパーソナライズ化を実現したことは、業界にとって大きなインパクトだ。
このようにマスカスタマイゼーションに向けた取り組みが加速する中、パナソニックはマスカスタマイゼーションの一般化が、現在のミレニアル世代による購買行動が活性化する2025年頃になると見据えており、RFIDタグを活用したサプライチェーン向けソリューションの展開を目指している。
同社によると、物販の今後の主流は、これまでの大規模工場による大量生産ではなく、数多くの中小規模メーカーが個々のニーズにあった製品を製造するマイクロマニュファクチャリングにあると指摘する。一方で、マイクロマニュファクチャリングが増大すると、消費者の個別注文を受け付ける窓口から製品デザインを行うクラウドサービス(AI)、実際の製造を行うマニュファクチャラー、そしてそれを的確に消費者に届ける物流業界まで、さまざまな産業が複雑に絡み合うことになる。そのような状況下でいかに効率的かつ確実に製品管理を行い消費者に届けるかが非常に重要になっていく。
そこでパナソニックは、RFIDを活用してこのような新たな形態のサプライチェーンを、滞りなくコントロールしていくことを目指している。具体的には、製造時に商品そのものに関する情報や注文者情報、配送先などを登録したRFIDを製品に搭載することにより、注文者、製造者、物流業者の誰もが製品の状況を確認できるようにする。これにより消費者はオーダー品が発送される前に、製品の仕上がりを確認することができるようになる。
また配送事業者も、RFIDの情報に基づいて、倉庫内での効率的な商品移動やどの商品をどの配送ルートに乗せるかをAIが決定し、ロボットが自動的に仕分けを行い、さらに天候や道路状況などを勘案して最適な配送ルートを決定して運送トラックに荷積みするということも可能となる。
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