筆者がCHAdeMOに携わっていた頃とは隔世の感がある。CHAdeMO協議会は2010年3月に、幹事会社5社(トヨタ自動車、日産自動車、三菱自動車工業、当時の富士重工業=現スバル、東京電力)で設立された。当時、急速充電規格は世の中にCHAdeMOしか存在していなかった。その後、欧米勢がCHAdeMO対抗としてコンボ規格(欧州版、北米版)を設定し、また中国はCHAdeMOとは若干異なる中国独自の規格としてGB/Tを設定した。最終的にはこれら4つの規格が、国際電気標準会議(IEC)で国際規格(IS)として承認されている。なお、ISは一定の安全基準を満たしていることを示すものであり、その実用化にあたっては、各国の法規や市場に委ねる形をとる。
当時4つ規格が存在したため、使用する側からみても不便であり、「共用化を進めては」との声はあった。しかし、関係者といろいろ議論を重ねても、相手との差別化が設立趣旨にあるため、共用化への溝を埋めることができなかった。
それから8年。当時の出力レベルは乗用車タイプのEVを対象にしたため50kWにとどまっていたが、時代は超高出力を要するバスやトラックなど大型EVが出現する事態に至って、状況が一変した。今回のインタビューでは、対象出力を350kW〜900kWまでを想定に入れているとのこと。もはや空飛ぶ自動車も視野に入るのであろう。
日中共同による急速充電新規格は重要な意味を含んでいる。新エネ車、EVバス、EVトラックで先頭を走る中国が入っており、彼らは新規格ができれば、国家標準であるGB/Tに組み込むであろう。そうなると、まだ立場を明らかにしていないドイツ自動車メーカーも、ガソリン車で約4割を中国で販売し、かつ新エネ車にも積極的であるだけに、否が応でも追随しなければならなくなる。また、2018年7月11日に中国の上海郊外でEV中国生産をアナウンスしたテスラも、EVトラック「セミ」を発表しており、採用の可能性も出てくる。
新規格については、コネクター開発、互換性確認、価格低減など、多くの開発事項も残っている。しかし、今回の日中共同による新規格は、来るべき超高出力のEVモビリティ実用化を支える重要な要素になると思われる。それが世界標準規格となることが望ましいが、これまでのいきさつから日中だけで決まるものではない。協力するパートナーを増やしながら、世界のEVモビリティに貢献するキーデバイスに育って欲しいと願わずにはいられない。
和田憲一郎(わだ けんいちろう)
三菱自動車に入社後、2005年に新世代電気自動車の開発担当者に任命され「i-MiEV」の開発に着手。開発プロジェクトが正式発足と同時に、MiEV商品開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーに就任。2010年から本社にてEV充電インフラビジネスをけん引。2013年3月に同社を退社して、同年4月に車両の電動化に特化したエレクトリフィケーション コンサルティングを設立。2015年6月には、株式会社日本電動化研究所への法人化を果たしている。
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