これまで日本企業はゲームチェンジに適応できなかったケースが多くあった。さらに産業構造がビジネスエコシステム型になることで、競争ルールが一変しており、伝統的な大企業が市場撤退に追い込まれているケースも出てきている。
電機業界を見ると、ブラウン管テレビは強かったが、液晶デジタルテレビになるとシェアは縮小した。同じく白熱電球も従来は競争力があったものの、LED照明では新規参入企業にシェアを取られるなどの状況が見られている。
こうした現象は日本だけでなく「米国の大企業もゲームチェンジに適応できなかった過去がある」と小川氏は指摘する。IBMは1980年代後半から1990年代前半にかけて大量の人員削減を行った。米国と同様の動きは、1990年代中期に欧州、2000年代に日本でも起こっている。理由の1つが、デジタル型のビジネスエコシステムの興隆である。「こうしたゲームチェンジの動きは多くの産業領域へと広がることが予想される」(小川氏)という。
エコシステムというのは、本来は生物学における生態系を意味する表現だ。ビジネスモデルは1つの企業の収益構造を意味する表現である。これがビジネスエコシステムとなると、多くの企業が得意領域を持ち寄ってつながり、産業全体で価値観を創り、価値を拡大するオープン化思想へとつながる。デジタル化、ソフトウェア化によってこのエコシステムを自由に形成することが可能となった。IoT時代はこれが大規模に発生する見込みだ。ここでは、エコシステム構造の事前設計で競争のルールが決定する。この競争ルールを自社優位に事前設計するには「オープン&クローズ」の戦略思想が必要となる。
オープン&クローズ戦略は、協調領域と競争領域を定め、競争領域についてはクローズして収益を確保する一方で、協調領域についてはオープン化し、市場全体に影響を与えることによって自社の利益を最大化するという考え方である。
小川氏はこのオープン&クローズ戦略によりPCの産業構造を自社優位に組み替えたインテルと、エコシステムを自社優位に事前設計し価値を維持拡大したアップルの事例を紹介。そして、オープン&クローズ戦略に必要な3つの要素を以下の通り説明した。
ここでポイントになるのが「伸びゆく手」である。「伸びゆく手」とは、一見オープン化されている領域に見えても実際はクローズ領域による支配を受けているという状況を作り出すことだ。例えば、PC市場におけるインテルや、携帯電話市場に対する基地局の存在などが当たるという。日本の製造業は特に、この「伸びゆく手」の構築で後手を踏んだと小川氏は指摘する。こうした戦略は現在でもさまざまな領域で利用されており、ゲームチェンジの原動力になっているとしている。
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